多様性が叫ばれる昨今、LGBT(性的少数者)の可視化が進んでいます。しかし、メディアなどの刷り込みで誤った認知を抱え、現実を知らない人が多いのではないでしょうか。
前編では新宿二丁目のゲイバーで働くぎんじ君としゅー君に、自身のセクシャリティに気づいたきっかけや家族へのカミングアウトについて伺いました。後編ではもっと突っ込んで、ちょっとした社会問題や人権、同性婚について語ってもらいました。
「オカマ」とひとくくりにしないでほしい
———今までゲイであるが故、受けた差別はありますか?
しゅー:僕は(ゲイに)目覚めたのが大学のときだから、さすがに無かったかなぁ。
ぎんじ:俺はもうゲイってのが言葉遣いとか仕草に出ちゃってるからね(笑)「姉さん!」って振られることが多いほど(笑)。
しゅー:一時期、とんねるずの石橋貴明さんのコントの「保毛尾田保毛男」が話題になったよね。あれはゲイ当事者が可視化されていない時代に放送されていたから笑える人が多かったんだろうけど、今の時代に放送したらクレームがすごいんだろうなっていう。
ぎんじ:去年、『俺のスカートどこ行った?』ってドラマもあったじゃない?あれ、面白くて好きだったんだけど、反面、やめてほしい気持ちもあって複雑だった。
誰とは言えないけどオネェタレントがメディアに出演した映像を見ると、「ゲイだからあの人と同じなんでしょ」だと誤解されそうだなと思うことも多い。
しゅー:わかる。
———オネェタレントにもいろいろジャンルというか、派閥がありそうですが。
ぎんじ:もちろんあると思うよ。俺らゲイバーのスタッフ同士でさえ気に食わない相手だっているくらいだし、プロ意識を持っていたらどの世界でもあると思う。
でも、テレビなんかで「オネェってこうですよ!」とか「女装はこう」、「ゲイはこう」とやられちゃうとそれがスタンダードだと思われる恐れがあるのが怖い。やっぱりテレビだから過激に演出されている。みんながテレビの通りじゃないよって思うこともある。
例えば、俺がよく言われるのは「やっぱりゲイの人って女性の気持ちがわかるんでしょ?」って相談とか。
しゅー:それあるよね。
ぎんじ:俺はたまたま女性の友達が多くて相談を受けることがあったから女の子の気持ちを理解できる方だけど、ゲイの中でもゴリゴリの男もいるし、むしろ理解できない人の方が多いと思う。
だけどドラマなんかで演出されるのは、「女の気持ちも分かります」とかスカートを履いてみたとか。ドラマとしては好きだけど、ちょっと不愉快な部分がある。
しゅー:オネェ言葉を使ったり、辛口なコメントをするのがゲイという印象が広がっちゃう。
ぎんじ:一般の人は分からないのよ。オカマ・女装家・ゲイの違いが。おそらくマツコ・デラックスさんはゲイで女装家だけど、ゲイってセクシャリティ(性の在り方)のことだから女装や化粧したいとは思う気持ちとは別。女性でもボーイッシュな格好している人がいるのと同じで、「オカマ」って単体で雑に投げられるとカチンとくる瞬間がある。
しゅー:あるある。
ぎんじ:女性だって「あんた胸小さいね」って仲の良い女の子から言われるのはいいけど、全然知らない人から同じこと言われたら「は? 何コイツ?」って思うでしょ?
———ゲイ用語でオネェ言葉を使ったり、手の動きがしなやかだったりすることを「ホゲる」と言いますが、お二人はお店でしかホゲないのですか? 今お話しいている最中は半分ホゲているような感じですが……
ぎんじ:俺は二丁目歴長いし自然にホゲが出ちゃってる。
しゅー:もう職業病だなって思う。
ぎんじ:お酒を飲んで楽しくなってホゲが出ることもあるけどね。狙っているというより方言に近いかも。
しゅー:わかる。僕もお店に入りたての頃は全然ホゲることができなかったし。だからお客さんに「え、君はゲイなの?」って訊かれてた。それで無理やりホゲるようになったら染み付いちゃった。
ぎんじ:今はホゲホゲよね。
東京レインボープライドのパレードは賛否両論
———同性愛者にとって最大の関門は現在の日本の法律では同性婚が認められていないことだと思うのですが、二人は法的に同性婚を許可してもらいたいですか?
ぎんじ:今日、しゅー君とちょうどその話してた! 同性婚に関して俺としゅー君は考えがはっきり違うかも。
しゅー:そうだね。僕は同性婚については社会的な権利というか、家族になれるという意味であったらいいなとは思っている。長年連れ添った大切な人が病気になっても自分はあくまで他人だから側にいてあげられないし、もし亡くなったとき葬儀の際に喪主にもなれず、ただ他の人と一緒に参列することしかできない。
それを考えると法律として認めてもらいたいけど今は諦めてる。今、世の中の変化がスローペースだから自分たちが生きている間に認めてもらえることはないと思う。でも、自分たちの後の世代の人たちのために変わっていってほしい。
ぎんじ:100年前、今の70〜80代の人はゲイってだけで石を投げられていた時代だったらしいの。でも今はゲイと言ったところで石は投げられない。だから変わるのにはもう50年はかかるんじゃないかな。
しゅー:そう、変化するとは思う。
ぎんじ:しゅー君は同性婚があってもいいと言ってるけど、俺はあってもなくてもいいんじゃない?って思ってる。だって、禿げたおじいいちゃん同士が手を繋いで歩いているのって男女のそれより目に映る美しさが違うんだよね。今はそうは思わないけど、子どもの頃はそう思ってた。
そうすると、自分がゲイって気づいている若い子は萎縮しちゃうんじゃないかなと。大人が手を挙げて「同性婚を認めてください!」って声を上げればいいけど、子どもは発言力がないから、余計悩んじゃう。俺は子どもが好きだから、東京レインボープライドのパレードとかできればやめてほしい。苦しむ10代の子たちが増える気がする。
しゅー:あれは賛否両論よね。
ぎんじ:あのパレードはお祭りとして楽しんでいる人たちが多くて「みっともないからやめてくれ」って言ってる40〜50代の当事者もいる。
しゅー:パレードするのは別にいいんだけど、「THE・ゲイ」って感じの典型的な格好をしてモッコリ具合を強調したパンツを履いているムキムキのお兄ちゃんが歩いてたりするから、そういうのって意味ある? って思っちゃって。ただバカ騒ぎしたいだけじゃないのかなって思っちゃう。
ぎんじ:見世物になってる感じがするよね。
しゅー:そう、そうなのよ!
ぎんじ:パレードに関する俺らの意見は少数派かもしれないけど、実際当時者の間でも意見は半々だと思う。
自分と関わっている人全員を大事にして欲しい
———お二人は二丁目で働いていなかったら何をしていたと思いますか?
ぎんじ:俺、本当は学校の先生になりたかったの。でも、当時やっていた音楽活動が忙しくて大学で教職(教職職員免許)取れなかったんだよね……。でも、音楽でやっていけなければ音楽事務所に入ろうと思って著作権に関する講義は専攻で取った。人生で一番しくじったのは教職を取らなかったことかな。
中学や高校で培うものって一生残ると思っているの。親しか大人を知らない時に密接に関わる大人って学校の先生だから、先生たちに「こういう生き方もあるよ」と教わるのは子どもにとってすごく大きいと思ってる。
今、ダメなものをダメと教える大人が少ないじゃん。だから俺はその度量も自分の物差しだと思うんだけど、加害者側と被害者側と第三者が見たときにどう思うか、というのを考えながらしゃべるようにしてる。そういうことをできる大人って今までの人生で少なかったなぁと。
しゅー:ぎんちゃんは子どもが好きだもんね。僕はお店には週2回出て、他の日は別の本職をしているから、二丁目に出会わなければずっとパソコンの前にいたと思う。
———最後に、お二人からセクシュアリティに悩んでいる方にアドバイスをお願いします。
ぎんじ:家庭や身の周りの環境、スタートがみんなそれぞれ違うから一概には言えないけど、基本的に他人は自分に理解がないと思っていいと思う。傷つくことを避けるため、無理にカミングアウトする必要もないと思うし、一番は生きていく上で自分を磨くこと。これは男も女も変わらない。さらに言うと、人を見極められたり言葉を理解できるようになるのが一番大事だと思う。それを貫いていると「この人だったら信頼できる」という判断が自然と出来るようになるから。
俺が一番反対しているのは、親に孫を抱かせてあげたいという気持ちだけで結婚したい、もう男と遊ばないという決心のために結婚すること。でも結局そういう人って結婚して子どもができても他の男の人と遊んでいるから、そういう人にはなってほしくない。子どもがかわいそう。
しゅー:僕も基本的にぎんちゃんが話してくれたことと同じなんだけど、僕もとりあえず周りを見ることと自分にかかわっている人全員を一人ひとり大事にしていくこと、今を大事にしてほしい。それの積み重ねよね。
ぎんじ:今、恋愛や人間関係、家庭環境もいろいろ複雑だったりするんだけど、家族って枠組み、血が繋がっているから大事という考え方をやめたの。何より自分を大切にしてくれる人を大事にしようと思っているの。その人たちは裏切らない。
でもそれを見極めるには力が必要だった。自分が大人になったって実感できたのって25〜26歳くらいだもん。俺、人のことなんでも信じちゃうの。だけど最近は冷静に考えられるようになったけど。
しゅー:自分を大事にしてくれる人と自分が大事にしたい人を、ちゃんと一人の人として考えて積み重ねて欲しいな。自分にとってこの人って大事なのかなと考えて大事にした経験は絶対次に活かせるし、自信にもなる。
ぎんじ:俺、人として冷たくなってた時期があったの。恋愛して失敗すると「人ってこんなもんか」って冷めちゃうというか。でもそういうときって、気づかないだけで意外と人から大事にされてる。
しゅー:そうね。
ぎんじ:足元をよく見ると、友達や家族がずっと一緒にいてくれたりすることもあるから、あまり思いつめないで欲しいと思う。