2020年、賑やかなお正月が終わった頃に、突如降って湧いてきたように全世界で話題になった新型コロナウイルスですが、児童虐待やDVの増加、コロナ離婚など家庭内にも多くの影を落とす結果となりました。
国内外で多くの人々が感染し世界の罹患人数は400万人を超えています。(5月12日現在) 連日報道される世界のニュースでは、本当にこれは私たちが今住んでいる現代なのだろうか?と疑いたくなるようなとても衝撃的でショッキングな映像が流れ続け不安を感じた方も多いことでしょう。世界で多くの感染者を出した新型コロナウイルスは残念ながら、私たちの住む日本でも流行し、私たちの生活スタイルや価値観を大きく変容させました。
新しい生活様式がもたらした家庭への影響
1、子供への虐待
新型コロナウイルスが世界的に大流行し、ロックダウン(都市封鎖)などが行われ、先行きが見えない不透明な状況下の4月8日、ユニセフが
『COVID-19の世界的大流行(パンデミック)は、各国に破壊的な影響を及ぼしています。ウイルスを封じ込める努力は、世界の人々の健康を守るために不可欠ですが、それは同時に、子どもたちを虐待、ジェンダーに基づく暴力、性的搾取を含めた暴力のリスクに晒しています。』
というショッキングなニュースを発表しました。ユニセフは続けて、
『世界の人口の3分の1が、COVID-19によるロックダウンの状況に置かれています。学校の休校は、15億人以上の子どもたちに影響を与えています。移動の制限、収入の減少、社会からの隔絶、過密した生活環境、そしてストレスや不安が高まる中、特に、以前から暴力的な扱いを受けていたり、適切な育児環境になかった子どもたちが、家庭で身体的、心理的、性的虐待を経験したり、目撃したりする可能性が高まっています。また、インターネットが、多くの子どもたちに、学びやサポート、そして遊びの機会を提供し続けるための中心的な役割を担い始める中、ネットいじめや危険なネット上の行動、性的搾取へのリスクも高まっています。』(引用:https://www.unicef.or.jp/news/2020/0077.html)
と発表し、子どもたちを新型コロナウイルスから守るだけではなく、安全な居場所を提供することにもっと意識を向けるべきだと注意喚起がなされました。
日本では安倍首相が3月2日から春休みの期間に渡り、全国の小中学校と高校特別支援学校において臨時休校を要請する考えを表明しました。それに伴い子供達は少し早い春休みに突入し、自宅で過ごす日々が始まったのです。萩生田光一文部科学相は、当初の休校期間について『2週間を目安とする』という認識でしたが、未だに学校再開の目処が立っていない自治体も多く存在します。(参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56131560X20C20A2MM8000/)
子どもたちが学校で新型コロナウイルスに集団感染してしまうという事態は逃れましたが、反対に、子ども達が家にいる状況が続くことで、子どもを預ける場所がないから仕事を休まなければならない、給食が無いから自宅で子どものためにお昼ご飯を用意しなければならない、といった具合に、親側の負担が大きくなってしまう事態が起きてしまいました。
4月の上旬といえば日本でも新型コロナウイルスの新規感染者数が日々増加し、徐々に街から人が減り始め、経済への影響も騒がれ始めたタイミングです。先行きが見えない不安定な時だからこそ、本当は仕事へ行き生活費を稼ぎたいのに子どもの面倒を見なければならない親が増えてしまったのです。
先の見えない状況に置かれた大人は「明日はどうなってしまっているんだろう」という強い不安を抱えてしまいました。そこに追い討ちを欠けたのは自粛疲れでしょう。いつ解けるともわからない法的根拠のない自粛要請に従う生活の中で、強い怒りや悲しみフラストレーションが生まれてしまいました。その憤りの矛先は本来守られるべき立場の子どもに向けられてしまいます。ユニセフが懸念し、警鐘を鳴らしていた子どもへの虐待が悲しいことに日本国内でも起きてしまったのです
2、家庭内における暴力
児童に対する虐待と同時に懸念されているのが家庭内での暴力、いわゆるドメスティックバイオレンス(DV)の増加です。DVの増加に関しては新型コロナウイルスが直接的な原因となって新規のDV件数が増加したというよりも、普段から行われている DV がエスカレートしている(週末だけだったものが平日にもDVを受けるようになった、など)と捉えることができるでしょう。
DVが増加してしまった原因の1つとして新型コロナウイルスの影響により急遽突然仕事がなくなってしまったことによる生活不安や、自宅にいる時間が増えてしまったことが挙げられます。テレワークなどが推奨され自宅にいる時間が長くなったことで飲酒量が増えている問題も耳にしますが、DVと無関係ではありません。普段の晩酌は軽く一杯二杯で止められるものが、時間がたっぷりあるという時間の制約が外れたことや、自宅ということも相まって次第に飲酒量が増え、普段とは異なった性格が露呈してしまうといった事態も起こりかねないからです。
悲しいことに家庭内における暴力から逃れるために、子どもと一緒に家から出た親が今度は子どもに手を上げてしまうような負の連鎖が起きているのも事実です。
3、コロナ離婚
今回の新型コロナウイルスではパンデミックやオーバーシュートそしてロックダウンなど聞き慣れない言葉が次々と私たちの耳に入るようになりましたが、その中でも異彩を放っている単語は『コロナ離婚』ではないでしょうか。
テレワークの推奨などにより、普段は会社に勤めている夫が在宅勤務となったものの、家事や子育てを手伝ってくれるわけでもなく、ただ家でゴロゴロしているだけの姿を見て妻がイライラを募らせてしまったことや、長引く自粛要請による景気悪化が家庭に波及し、家庭の経済的な理由からくる夫婦喧嘩などが原因となっているようです。また先に挙げたDVの増加もこのコロナ離婚を考える理由の1つになっているでしょう。
新型コロナウイルスにより実際に離婚件数がどの程度増えたのか、まだその統計は出ていませんが『コロナ離婚』という言葉がトレンドに上がるくらいなので、追い詰められている人は想像以上に多いのだろうという印象を受けました。
「#ステイホーム」の影に隠れる家族の問題
新型コロナウイルスが流行し3密を避けるため『#おうちで過ごそう』や『#ステイホーム』という言葉が広まり、東京都の小池百合子知事も2020年の大型連休を『いのちを守るSTAY(ステイ)HOME(ホーム)週間』と提言しました。 ネットやテレビでは家で家族みんなで楽しめる料理レシピの公開や面白い動画などが紹介され、連日話題になっています。
このような『#おうちで過ごそう』運動を見ていると一見「家族団らんの延長」という微笑ましい姿がイメージされますが、 家にいる方が苦しく、命の危険にさらされてしまう人や子どもがいることを忘れてはいけません。
児童虐待やDV被害者を支援する人が『自粛が要請されてから以前のように活動することが出来ず、これまでに連絡を取り合っていた人たちとの連絡が途絶えてしまい心配している』と発言している記事も目にしました。新型コロナウイルスが流行する前であれば、学校や職場で気分転換したり他の人に話を聞いてもらうことで気持ちを落ち着かせていた人も、今回のこの自粛要請により自分の気持ちを吐き出す場所を失い、次第にフラストレーションを抱えてしまっています。こうして抱えたフラストレーションは弱い立場の者へとその矛先を向け、抑えきれなくなった瞬間に爆発してしまうのです。
家族は小さな1つの社会
私は家族とは“小さな一つの社会”だと考えています。
家族には男性がいて、女性がいて、場合によっては子どもやペットとなる動物がいます。それぞれが各々の役割を果たし、共に力を合わせて生きていく姿はまさにひとつの社会と言えるのではないでしょうか。
今回取り上げたような子どもに対する虐待やDVなどの問題は家庭だけの問題ではなく、現実世界の問題に通じる問題ということが出来るでしょう。児童虐待やDVから逃れる為、家を離れる様子は難民が生まれ育った祖国から逃れる様子と何ら変わりません。家庭内でも現実世界でも、力を持った人間が弱い者に対してその権力を奮ったり、力で物事をねじ伏せたりする事態が横行しているのです。
世界で猛威を振るった新型コロナウイルスも、各国でピークを脱し徐々に落ち着きを取り戻しつつあります。新型コロナウイルスについて市民に意見を問うインタビューでは『早く以前の生活に戻りたい』や、『窮屈で死にそう』というような言葉をよく聞きました。
しかし、今一度本当に以前の生活が良かったのか、考える必要があると思います。純粋に以前の生活が自分に合っていて良かったのか、それとも問題はあったけれど、周りの喧騒でその痛みを掻き消していたのか、じっくり見極めるべきでしょう。この作業には痛みを伴いますが、きちんと目を開いて現実と向き合うことが必要とされています。
新型コロナウイルスから命を守った私達が次に守るべきものは一番身近で小さな社会である家族であり家庭ではないでしょうか。私が考える理想の社会とは、「ただそこにいるだけでよく、お互いを認め合えるもの」だと思います。目の前で起きている事態から目を逸らすことなく立ち向かい、解決していくことが真の意味でのコロナ後の新しい社会を作っていくことに繋がると信じています。