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  • コラム
  • 姫野桂
  • 2020年2月19日

残ったのは400万の借金だけ……発達障害者をターゲットにする詐欺師に注意!

取材・テキスト
姫野桂姫野桂

「このセミナーに参加するとモテるようになる」「この方法で稼げるようになる」という詐欺事件は、時代によって手法は違えど後を絶ちません。発達障害の人は言葉の裏が読めないケースや、言われたことを素直に信じ込んでしまう特性を持った人もいます。発達障害の認知が進むと共に今、発達障害者をターゲットにした詐欺や、悪質な自己啓発セミナー、オンラインサロンなどが存在しているとのこと。

 そこで今回、ASD自閉症スペクトラム障害)当事者の佐々木智則さん(仮名・20代)が受けた詐欺被害について話をうかがいました。

最初は厳しく、次に優しくして洗脳する

 元々、恋愛の悩みを抱えていた佐々木さん。人付き合いが苦手なことから女性との交際経験がなく、恋愛コンプレックスを抱えています。そんな佐々木さんですが、数少ない大学時代の友人のAとは卒業後も付き合いがあり、心置きなく何でも話せる仲だったそうです。

「Aには恋愛コンプレックスについて話していました。すると、Aは恋愛セミナーを行っているKという男性を紹介してきました。このKは自称コンサル会社社長で、他にも自己啓発セミナーや人材紹介、朝会など、いろんなビジネスに手を出していたようです。Kから『モテるようになるには第一印象が大事。筋トレをしてファッションにも気を遣いなさい』と言われ、AとKと僕のLINEグループを作らされました。そして、筋トレをしたことを毎日そのLINEグループに投稿するよう言われ、彼の言う通り筋トレに励みました」

 次にKに会った際、「きちんと毎日筋トレしていて偉い!」と佐々木さんは褒められたそうです。最初厳しくしてその後優しい言葉をかける。これは詐欺師や新興宗教の教祖がよくやる洗脳方法です。要するに飴と鞭です。

あやうく保険金詐欺罪で逮捕されそうに

 さらにKは「実は自分も発達障害だから君のつらい気持ちが分かる」とまで言ってきたそうです。本当にKが発達障害かどうか真偽はわかりませんが、もし嘘だとしたら、発達障害当事者へ対する侮辱とも取れます。しかし、佐々木さんはすっかりKに洗脳され、信用しきってしまいました。

 その後、佐々木さんは「本格的に恋愛セミナーを受けるには10万円を払う必要がある、心配しなくても元は取れる。あと、自立している男のほうがモテるから俺が用意するシェアハウスで一人暮らしをしろ」とKに言われます。しかし、さすがに10万円を払うことに戸惑いを覚えて支払わず、親からも「実家から職場に通える距離なのだから一人暮らしをする必要はない」と言われ、Kによるモテの伝授は終わったといいます。

 ところが、Kから別の話を持ちかけられました。「自分(佐々木さん)が事業主ということにして損害保険に入り、パソコンが壊れたことにしたり、事故を起こしたことにして、保険を受け取れ。」と言われます。その保険金を資金にして新しいビジネスを一緒にやろうと持ちかけられたのです。

 定型発達(健常者)の人なら「それは詐欺行為で罪になる」と思うところですが、佐々木さんは疑うことなく保険に加入しました。Kは「保険加入を親に説明する際、親からこう言われたらこう言い返せ。」と細かく指示を出していました。その指示通り、佐々木さんは母親に「今加入している保険より保険料が安くなるから、今入っている保険を解約したい。」と申し出て、新たな保険に加入しました。

しかし、毎月の保険料を払っているのは母親であるため、話がおかしいことに母親は勘付きます。そして、このままもしKの指示通りに佐々木さんが保険料を受け取ると、詐欺罪として佐々木さんが逮捕されてしまうことに気づき、佐々木さんを説教します。

「早めに母親が気づいたおかげで、1ヶ月間だけで解約しました。もし、これで何かを壊して保険料を受け取っていたら逮捕されていたと思うと今でもぞっとします。警察にも届けましたが、ただ契約して解約しただけの状態だったので、罪には問われませんでした」

ビジネスの資金として貴金属を買わされる

 そしてこのあと、さらに恐ろしい事件が起こります。なんと、ビジネスの資金にするためだと、貴金属の買い物に連れて行かれたのです。

このときはYという男性が案内役となりました。「最初、僕は一切支払わなくていいということだったのに、某貴金属店につれて行かれた際に払わされたのは僕でした。貴金属は1つ150万円。そんなお金は持っていないのでローンを組まされました。Yが側にいて、店員が前と後ろに2名ついて、もう逃げられないよう囲まれている状況でした。逃げ出したかったのですが、逃げたら殺されるかもしれないという恐怖を覚えました。おそらく、店側もグルだったのではないかと思います。
ようやく高額な買い物が終わったと思ったところ、Yから『2軒目に行きますよ』と、無理やり別の貴金属店に連れて行かれ、同じ150万円の貴金属をもう1つ購入させられました。」

 つまり、佐々木さんは300万円もKに騙し取られてしまったのです。購入した貴金属はそのままYが持ち帰ったそうです。

「貴金属の保証書も何もありません。残ったのはローンの明細と借金だけです。利子がついて借金は400万円になりました。また、しばらくの間はビジネス配当金ということで振込はありましたが、振込が遅れるようになりおかしいと思い、両親に相談しました。両親はすぐに弁護士に相談しAとKに詳しい話を聞きたい旨を書いた文章を配達証明付きで送りました。するとすぐに2ヶ月なかった振込がされました。弁護士は現在振込がある限り、手は出せない……と。振込が無くなったら今の給与では到底支払える金額ではないですし、自己破産などするしかないのかなと、人生の岐路に立たされている気分です。」

 現在は、KやAへの携帯やLINEへは連絡できず、着信拒否及びブロックをされているそうです。他の連絡手段はないかと調べ、Twitterで彼らのアカウントを突き止め、DM(ダイレクトメール)を送信。請求した1ヶ月分の金額だけ回収できているそうです。他にも被害者がいる可能性が高く、被害者の会を作れば解決への糸口つかめるかもしれないとのことです。

ただ、詐欺被害者は自分にも非があったのかもしれないという不安などの思考により、申し出づらい傾向にあるはずなので、もし、この記事を読んで同じような手口でKに騙された被害者がいましたら、姫野のTwitterのDMに連絡をください。そうすれば佐々木さんとお繋ぎし、被害者の会を作れます。

おいしい話には要注意!

 詐欺被害にあってしまった佐々木さんは最後にこう語りました。

「相手の印象がちょっとでもおかしいと思ったら逃げるべきです。実は、今思うとKの第一印象は悪かったのですが、Aとの友達付き合いもあるし、と思って話にのってしまいました。あと、態度を突然変えてくる人も怪しいと思ったほうがいいです。」

 簡単に儲かる話はほとんどありません。また、高額の恋愛セミナーや自己啓発セミナーにも要注意。心理カウンセラーと名乗る人はいますが、これは国家資格ではないので、一部には悪質なカウンセラーもいます。メンタルクリニックに常勤している臨床心理士や公認心理師に頼るのが確実です。ただ、きちんとした医師免許や国家資格を持っていても悪用してくる人もいる点が困ったところです……。

 発達障害傾向のある人はこのような悪質な詐欺に引っかかりやすい傾向にあるので、少しでも変だな? と思ったらすぐに家族や友人、身近な定型発達の人に相談してください。発達障害傾向のある人は自己肯定感の低い人が多いので、その不安な思いに漬け込んでくる悪い人がいることを頭に入れておきましょう。

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