ですが、アメリカの10代の妊娠率は諸外国と比してもかなり高く、最も高いニューメキシコ州ではなんと62%(15歳以上1,000人に対し調査(2013年統計数※1)にも上ります。10代女子の半分以上が妊娠したことがある計算になります。
※1 ThoughtCo.「States With Highest Teenage Pregnancy and Birth Rates」参照https://www.thoughtco.com/states-highest-teenage-pregnancy-birth-rates-3533772
そのため国民皆保険制度がないアメリカでは、机上論ではなく、起こり得る性行為前後のケアについてきちんと教育するべきだと言う声が大きくなってきました。性行為を助長しないようなやんわりとした教育ではなく、きちんと知識として使える実用的な教育をなそうというムーブメントに繋がりました。
実際に2009年から2013年にかけてコロラド州では、ティーンや貧困層の女性に無料で避妊器具を提供する取り組みを行い、その間の10代の出生率が40%も下落したのです。※2
※2 The New York Times「Colorado’s Effort Against Teenage Pregnancies Is a Startling Success」 参照https://www.nytimes.com/2015/07/06/science/colorados-push-against-teenage-pregnancies-is-a-startling-success.html
その取り組みとは、単に禁欲を叫ぶのではなく、
・10代女子が買いづらい避妊器具を無料配布
・女性自身がエチケットとして避妊器具を持つ
を実施することで、学ぶ関心を持ってもらうきっかけを作るという自治体や企業が率先して行えるものでした。
セクハラや人身売買に関する教育も
アメリカのカリフォルニア州では、7~12年生(日本の中高校期にあたる)で十分な性教育を行うよう指南するカリフォルニア州法「California Healthy Youth Act (CHYA)」を策定しました。※3
この州法は、HIVやその他感染症の性質、予防と治療、避妊、禁欲、妊娠、性的指向の表現とアイデンティティ、同性カップル、性的虐待や暴力、人身売買、セクハラ等を盛り込んだ性教育カリキュラムを、2019−20年内に教育現場へ実施することを義務付けたものです。
※3 「The California Healthy Youth Act &2019 Health Education Curriculum Framework」参照https://www.sdcoe.net/lls/ccr/Documents/How%20CHYA%20is%20different%20from%20Framework.pdf
この州法が策定されるまでは、学区毎に親と教育現場担当者が話し合った上で、どこまで教育現場で教えるかを議論する裁量がありましたが、州が求める多角的でより踏み込んだ性教育カリキュラムはあまり採用されていませんでした。
トピックが一新されたことによって、身体面だけでなく心理的な面から自分自身の”性”を認識できます。例えば、「この気持ちはおかしくないかな?」、「習い事先でこんな出来事があったんだけどこれってセクハラなの?」と、自分の心身の変化を相談する等、子供と大人間のコミュニケーションも促進できるのではないのでしょうか。
今後義務化されたカリキュラムがどのように10代の若者に影響していくのかが期待どころです。
性教育=気まずいトピックイメージを払拭
次世代のこどもたちが無意識の内に被害者また加害者にならない為にも、性教育を気まずいタブーなトピックから引き上げていきたい所です。
とは言ってもまだ家庭内で気軽に話し合うのはなかなか勇気のいること。この引き上げを公的な教育機関で行っていくことはもちろん重要ですが、性教育について自発的に知ってもらうきっかけを作り、「これ知ってる?」などと性に関して気軽に話し合える様な日本の土台作りを率先できるのは、もっと深く踏み込んだ性教育を普及できる立場にあるこの記事をお読みの皆様なのかもしれません。
<参考文献>
・”Advanced Sex Education Hits Curriculum This Fall”.San Marino Tribune (2019年4月12日). 2019年12月15日閲覧https://sanmarinotribune.com/advanced-sex-education-hits-curriculum-this-fall/
・”Kalamazoo schools updates sex ed curriculum to include consent”. Michigan Advance(2019年11月22日). 2019年12月15日閲覧https://www.michiganadvance.com/blog/kalamazoo-schools-updates-sex-ed-curriculum-to-include-consent/
・”Colorado’s Effort Against Teenage Pregnancies Is a Startling Success”. The New York Times(2015年7月5日). 2019年12月15日閲覧https://www.nytimes.com/2015/07/06/science/colorados-push-against-teenage-pregnancies-is-a-startling-success.html
・ “恋人のことを「怖い」「息苦しい」と感じているあなたへ”. 男女共同参画局. 2019年12月15日閲覧http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/date_dv/victim.html
執筆
為我井 優子(ためがい ゆうこ)
幼少期を中国で過ごしたことがきっかけで興味を持った多文化間コミュニケーションと日本文化を大学で専攻。在学中にニューヨークへ留学し、ジャズバーやダンススクールに足繁く通いながら、NGO団体のボランティア、NPO法人にて企画やファンドレイズ業務に従事。卒業後はアタッシュドプレスのPRプランナー、福祉会社の広報企画を経て、現在は心理学を勉強しながら様々な人と出会えるスナックに勤務。