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  • 社会
  • SDGs
  • 2020年7月31日

【SDGsな人々#12】ソーシャルプリンティングカンパニーとして日本のSDGsを牽引する! 株式会社大川印刷 大川哲郎さん

2005年にグリーン購入大賞受賞、2018年にジャパンSDGsアワード パートナーシップ賞を受賞するなど、社会課題やSDGsへの取り組みが高く評価されてきた株式会社大川印刷。

「なぜそんなにも早くから企業として社会課題に取り組むことができたのか?」「SDGsに取り組む上で大切なことは何か?」など、大川哲郎社長の原点に迫ります。

———本日はインタビューよろしくお願いします。御社のHPで略歴などを拝見しましたところ、2002年頃から社会起業家の調査研究を始められたとのことでした。当時そういった研究をやってみようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

2002年はちょうど「社会起業家」という言葉が出てきた年で、まだ「ソーシャルビジネス」という言葉はありませんでした。

ソーシャルビジネスに携わるようになった一番のきっかけを遡って考えると、18歳の頃に医療事故で父親を亡くしたこと、そしてアメリカに行ったことです。

当時私は父の医療事故を目の当たりにして人間不信に陥っていたのですが、ちょうどその時期にアメリカ南部の音楽に興味があり、最少催行人数ギリギリの誰も行かないような、黒人音楽を辿るツアーに参加したのです。

アメリカで格差や差別を目の当たりにし、理不尽な思いをしている人がいることを知った

———アメリカでの体験は大川さんにとってどのようなものだったのでしょうか。

初めてアメリカに行ったのは1989年です。当時ツアーで最初にシカゴに入り、その風景が見えたときの感動は今も忘れません。アメリカは人種差別を、現在進行形で過去からずっと引きずっている国です。

音楽を目的にアメリカに行きましたが、そこで貧富の差や格差や人種差別の問題を目の当たりにしました。

私が行ったのは、今も白人至上主義者が多いアーカンソーやミシシッピーといった土地です。私自身も、多少なりとも白人から差別的な言葉を言われたりしましたが、黒人の人たちは非常に良くしてくれたのです。それがきっかけになって黒人音楽にのめり込み、今ものめり込んでいます。

ビリー・ホリディという1930年代に活躍したブルーズシンガーがいて、彼女の代表曲である「奇妙な果実(Strange Fruit)」という曲が人種差別を象徴的に表しています。

(ビリー・ホリディ)

この曲は、白人主義者によって黒人がリンチを受け、首に縄をかけて吊るされている様を「奇妙な果実」と呼び、その遺体が朽ち果てていく様子を歌った歌なんです。

なんてリアルなんだと思いました。これは実際に行われていた行為であり、そういう写真も残っているんです。

私は当時、父親を医者に殺されたと思っていて、自分が世界一不幸であるかのように思っていました。

でも、もっと厳しい状況にある人がいることを知って、ハッと我に返ったんです。こんなことじゃいけないなと思った。どうしてそんなに社会的課題に取り組めるんですかと質問されることがありますが、よく考えたら原点はここなのかなと思っています。

理不尽な思いをしている人たちに対する強い思いが、今もあります。

ソーシャルプリンティングカンパニーへ

———2005年には「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げられ、印刷会社という事業を通じて社会課題に取り組んでおられますが、環境経営へと変わっていったきっかけはあったのでしょうか。

初期投資ゼロの太陽光パネルで自家発電

2002年に横浜青年会議所で、社会起業家の調査研究をした時に「メディセフ」という会社の井崎さんという方に出会いました。メディセフはユニバーサルデザインの服を出していて、そこで障害の有無にかかわらず、着やすくファッショナブルな洋服をデザインしていたのが井崎さんです。

その井崎さんが、インタビューをした時に「私は洋服を通じて社会を変えたい」という言葉をおっしゃったのです。

今は、ソーシャルビジネスというものが当たり前の時代になっていますよね。

ですが、ソーシャルビジネスという言葉さえもなかった今から18年も前に、女性の起業家が事業を立ち上げ、自分のものづくりを通じて社会を変えたいというメッセージは、私にとって非常に衝撃的なものでした。当時はバブルが崩壊して、どんどん会社の売り上げが下がっていた時期です。

4割から5割も売り上げが下がり、このままじゃ潰れてしまう、自分はとにかく従業員と家族のために仕事を取ってくるしかないと思っていました。

そのために会社の競争優位性を保つ、もしくは伸ばしていくためにどうしたらいいかを考え始めました。

そんな時に井崎さんの言葉に触れて、自分は一体何を考えていたのかなと反省しました。そして、「そうか、うちは印刷を通じて社会を変えればいいんだ」と思ったのです。私の仕事は、手段が目的化されてしまっていたことに気付きました。印刷の仕事を取ってくるのが私の仕事になっていたのです。

印刷物を作るのは手段の一つに過ぎない、その先にある目的、目標を達成しなければならないと気付かされたのです。自分は、印刷を通じて社会課題を解決するのだと気付かされたのです。

よくSDGsについて質問されますが、どうやって取り組めばいいのかという、取り組み方についての質問が9割なんですよね。でも、そうじゃない。

その前に、「なぜ取り組むのか、誰のために、何のために取り組むのか」ということの方が実は大切なんです。

「どうしたらうまく見せられるの、大川さんみたいに?」なんて言われるけど、こういうのは見せかけでやってもすぐにわかっちゃうんですよ。

「大川印刷さんがやりたいことを、どうしてうちがやらないといけないの?」と言われた時代

———環境経営へのシフトや事業を通じた社会課題解決を、周りに理解してもらうのは大変だったんじゃないしょうか?

今のSDGsでも言えるけど、人ごとを自分ごとにして、自分の仕事にするという変換を、どうやってみんなに伝えていくかというのは非常に難しい部分です。

当時うちの会社は、他の会社と同じように「人のために優しい大川印刷です」、その前は「地球に優しい大川印刷です」とやってたわけです。

ですが、お客さんには響かないんですよね。

最近はやっとESG投資などが出てきて、世の中は変わってきています。ですがその前にものすごく長い間、それこそ1990年代からつい2、3年前までの間、お客さんが全然自分たちの取り組みに答えてくれない、反応してくれないという期間が続きました。

社員を巻き込むことも大変ですが、むしろお客さんが理解してくれないことの方が辛かった気がしますね。つい数年前まで、自分たちの理念や取り組みを説明すると、「それって大川さんがやりたいことでしょ?大川印刷さんがやりたいことを何でうちがやらないといけないの?」って言われてたんですよ。

世の中のためになるっていうことが御社のPRにもなるし、実質的な評価にも繋がるのになって、悔しい思いをしていました。

———社会が変わってきている実感はありますか?

今は本当に世の中変わったなって思いますね。やっぱりグローバル企業として、ESG投資がもう避けられない問題じゃないですか。なので、グローバル企業が完全にそっちを向いたということですよね。

2018年ぐらいには、中小企業の社長のところにも「ESG取り組みのアンケート」がきていました。だから、もう誰にとっても人ごとじゃなくなってきてるんですよ。ましてや今、その取り組み自体が評価されるというのが、CSRという考え方やSDGsが出てきてより明白になっています。

だからみんな、話を聞いてくれるようになったと思うんですね。

今は「社会に貢献します」みたいなのが、逆に流行りのようになってきているじゃないですか。

SDGsは事業を再定義、再構築する作業である

———企業がSDGsに取り組む時に、大切なものは何だと思いますか?

SDGsは、新しいものだって勘違いされちゃうことが多いなと思います。私は、古くは渋沢栄一さんの時代から、やっていることはSDGsだったんじゃないの?って思うんですよ。

要するにインフラ整備などの、世の中に行き届いてないものをビジネスとして解決していくということです。

いろんな企業も、今存在しているということは、少なくとも現時点で社会から必要とされているから存在しているわけです。存在意義があるはずなんですよ。それをまずは明らかにする。そして、自分が過去に歩いてきた道を見るわけです。

振り返ってみて、SDGsのどういうことが自分の会社の取り組みと関係してるんじゃないかと、考える。そうすると、我が社の原点って立ち返るとこれなんだなっていうのがあるはずなんですよね。

また、SDGsの各ゴールを見て、ちょっと待てよこういうこともできるんじゃないか?と見出せるものがあるかもしれない。

そうすると、事業の再定義ができます。SDGsへの取り組みとは、事業を再定義する、あるいは再構築する作業なんです。

企業にとって究極の社会貢献とは

———自分の思いで作った事業を、個人の野望で終えずに組織の目標やビジョンにするのは、一個人として難しい部分もあると思いますが、なぜそれができているのでしょうか?

元内閣官房参与で多摩大学大学院名誉教授の田坂広志さんと言う方がいらっしゃいます。田坂さんが「企業の社会貢献とは何か」について、まだ日本でもCSRとは何か十分に理解されていない2004年頃、本でこのように書かれていました。

「企業にとって究極の社会貢献とは、社会に貢献する人材を輩出することである」

私は田坂さんをとても尊敬しています。

社会に貢献するということは、自分の野望を実現するかどうかではないのだと思っています。

私はあまり野望というものよりも、野心や情熱を大事にしています。熱くなるのことを大切にしています。

サミュエル・ウルマンという、アメリカの実業家であり人道主義者でもある人が、「青春の詩」という詩を残しています。

齢を重ねるだけでも誰もが老いてゆくのでは無い

理想を失い自信をなくした時にのみ人は老いる

年齢は皮膚に皺をよせるが 情熱を失うとその人の魂に皺がよる」

一人でできることは限界があると思っています。だからこそ個人の野望よりも情熱と感激性をもって互いに他者とも協力し合うことが大切だと思っています。

編集後記

まだ「ソーシャルビジネス」といった言葉すらなかった時代から、企業として社会課題に取り組んできた大川印刷の大川哲郎さん。

そんな大川さんの社会課題意識の原点は、「理不尽な思いをしている人たちへの思い」でした。

本来は人間として皆当たり前に持っている意識でも、それを言葉にし、行動に移し、長い期間をかけて前向きに取り組んでいくことは難しいものです。

企業としても、人間としても、大切なものを教えてくれた大川さん。ありがとうございました。

 

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