外国人向けの料理教室事業を行っているわしょクック株式会社
日本の家庭料理を通じて広がっていくコミュニティと、社会課題やSDGsについての取り組みを、代表取締役の富永紀子さんにインタビューさせていただきました。
他国で味わう家庭料理の魅力
———この事業を始めたきっかけを教えてください。
私は大学卒業後、製薬会社や化粧品会社のマーケッターとして働いていました。主人の転勤をきっかけに義母と同居することになった時、義母が作ってくれた家庭料理がとても美味しく、とても感動したのを今でも覚えています。
レシピを聞いたところ、「適当よ。」と言われました。義母の作る料理はレシピなどなく、長年の経験から生まれていたのです。「私も義母のような美味しい料理を作れるようになりたい」と、目分量の調理方法を分量化し、レシピにして同僚の外国人に振舞ってみたら「美味しい!」と喜ばれたことが最初の始まりです。
12年前私がニュージーランドを旅した時に家庭料理をごちそうになる機会があり、外国人にとって家庭料理を現地で食すということは、とても特別で価値があることだと身を以て体感しました。
家庭料理を通じたコミュニケーションはとても温いものがあり、自分たちもいつか海外で日本の家庭料理を広めるビジネスをしたいという夢を抱くようになりました。しかし、私自身が料理教室にすら通ったことがなく、一体どんなコンテンツを提供すれば良いのか・・・と模索していた時に義母との同居が始まりました。美味しい家庭料理に触れて、「これだ!」と思い、まずは日本で外国人に和の家庭料理を教えるビジネスを立ち上げることにしたのです。
実は、わしょクックのカンパニーロゴは義母なのです。
ひたすらレシピを作成したり、料理教室に通いどんな風に先生は料理を教えているのかを勉強したり、通信教育で食育についての知識を得たりして、料理教室を開校しました。
私は相模原市に住んでいるのですが、ここは座間基地などの米軍基地が近いためアメリカの方が多く生活しています。最初の料理教室はこの地域に住む在日の外国人向けに始めました。言葉も不自由で買い物も食事も慣れてない中、この料理教室がコミュニティの場所となって、社会に溶け込むお手伝いになればと考えていました。
また、この地域は日本人の配偶者を持つ外国人も多くおり、寿司や天ぷらのようなご馳走ではなく、普段から食べる日本の家庭料理を学べる場を提供できればと思い、さがみはら国際交流ラウンジという外国人の暮らしをサポートする場所で講師をしたり、イベントをしたり、ボランティアをすることも同時に行っていました。その活動を新聞で何度か取り上げていただき、利用してくれる方や応援してくれる方が増え、どんどん事業が大きくなっていきました。
———料理を通じたチームビルディングプログラムも行っていると伺いましたが、どのような内容なのでしょうか?
グローバル企業向けに和食を作ってチームビルディング研修を行っています。多くの場合は日本をテーマにした創作ちらし寿司と創作巻き寿司を作るというものです。
5~6人で日本にまつわるテーマを決めてアイディアを出し合い、使う食材を決め、自由に作り盛り付けて、最後にプレゼンをしてもらうというプログラムです。
英語でチームビルディングをするのはコミュニケーションを取るのが難しくなりがちですが、料理というツールを挟むことで通常よりもコミュニケーションが取りやすくなります。社員同士のビルディングが構築できると、仕事の効率化にも繋がると大手グローバル企業に導入されています。
このチームビルディング研修ですが、現在はコロナ禍という状況を鑑み、Zoomを使ってオンラインでも実施できるようになっています。
家庭料理から広がるコミュニティと社会貢献
———SDGsや社会課題への取り組みを教えてください。
私は日本の家庭料理を広めるために活動をしていますが、一人で活動していてもなかなか普及しないということもあり、認定講師の養成スクールを始めました。
やっと子育てが終わり自分の時間が持てた方や、定年退職した方が、さて次は何をしようか?と考えた時に、家族のために作っていた家庭料理や、勉強してきた言語を使って社会に参加し続けたいというお声を多く耳にしました。
わしょクックのの講師育成は、”講座が終了したらさようなら”ではなく、卒業後はわしょクックで働ける仕組みになっており、外国人に家庭料理を教えたり、イベントを行ったりと継続的に社会に貢献できる環境ができており、現在認定講師として100名以上が活動しています。
皆さん最初は、”私のスキルで講師なんて…”という思いを持っていらっしゃるのですが、実際に外国人に料理を教えるととても喜ばれます。すると、自分に自信を持つようになり、どんどんイキイキしてくるんですよね。その中で、女性の雇用機会を創出していることが評価され、2019年に神奈川なでしこブランドに認定されました。
今はコロナ禍で集まって教室を開催することは出来ませんが、教室や講座のオンライン化の仕組みづくりを進めており、日本を飛び出し世界各地で受講してもらえるようになってきており、私も講師たちもやり甲斐を感じています。これは、SDGsのゴール#8「働きがいも経済成長も」に貢献できているのではないかと思います。
始めた当初は、講師の数が仕事の数より多くて、活動の場を提供できず苦労したこともありましたが、起業してから6年目になり相模原ではじめた活動が今では世界中に広がり、どんどんスケールアップできています。
———お話を伺っていると、食を通じてコミュニティの形成を目指しているなど子ども食堂の理念と似たものを感じますね。
渋谷区からの依頼で、実際に8月に1回子ども食堂に講師を派遣しています。講師も地域貢献が出来てとても喜んでいます。
弊社は全国にフランチャイズがあるので、地方創生への取り組みも行っています。
過去実績としては、新潟の十日町で1日田舎体験ツアーや、鎌倉や我孫子の古民家を借り、そこで地元の野菜を作ってイベントを行ったこともあります。最近では、オリンピックのセーリングの会場にもなっている江の島で、和のおもてなしを行うイベントを日本セーリング連盟からの依頼で企画しております。今後も地域社会の活動にどんどん参加していきたいなと思っています。
この活動は、SDGsのゴール#11「住み続けられる街づくりを」に通じるものがあると思っています。
———今まで様々な社会貢献活動や事業をされていますが、今までで1番印象に残っているエピソードはなんですか?
メイク・ア・ウィッシュという難病の子供たちの夢を叶える団体のカリフォルニア本社から連絡があり、ウィッシュチルドレンにキャラクターのお弁当を教えた時ですね。
アメリカから、8歳の男の子のウィッシュチルドレンとご両親、彼の弟の4人でやってきました。一見普通の子供ですが、話を聞くと脳に取り切れない腫瘍があるとのことでした。
トトロなどのキャラクターのお弁当を一緒に作ると、とっても喜んでくれて私も嬉しい気持ちでいっぱいでした。
作ったお弁当を食べながら、その子のお母さんからこんな言葉をいただきました。
「私はこの子をウィッシュチルドレンに入れるのをためらいました。なぜなら、入れることによって治らない病気であるとレッテルが貼られるような気がしていたからです。でも、すごく良い主治医に会い、この子の人生を輝かせるためにウィッシュチルドレンという団体はあるんだよと言われ、ようやく昨年入会をし、今回日本に来ることになりました。彼はアニメが大好きで、ずっとキャラ弁を作りたいと言っていて、今日ようやく夢が叶いました。本当にありがとう。」
人のターニングポイントに立ち会い、夢を叶えるお手伝いができた事に大変感動し、料理教室を始めて良かったなと心から思った瞬間でした。
———これから御社で取り組みたいテーマはありますか?
美味しい日本の家庭料理・和食を世界に広げることが弊社の理念です。
コロナで足止めされてますが、渡航制限がなくなったらニュージーランドに拠点が出来ます。
日本とニュージーランドの拠点から、世界中で美味しく・正しい日本の家庭料理を世界中にどんどん広めていきたいです。
芯はしっかり、変化に対応していく
———昨今のコロナウイルスや地震・天災など予想できない猛威が社会を襲っていますが、こういった不安定な時代を生き抜くうえで大切なことはどんなことだとお考えでしょうか。
大切にしていることは2つあります。一つ目は、理念をしっかり持つこと、私自身で言うと「日本の家庭料理を世界に広げること」です。
二つ目は、変化を恐れないこと。理念さえ持っていれば、少し方向を変えてもブレずに行動できます。
弊社で言えば、最初は在日外国人を対象にしておりましたが、その後に訪日(インバウンド)外国人、今は、海外在住の外国人へ、日本の家庭料理を伝えるビジネスを行っています。また、オフライン教室を、オンライン教室にシフトチェンジもしています。
大事なのは柔軟さと機転。そして、それに対応するスピードかなと思います。