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  • 2020年8月31日

【SDGsな人々#13】キックボクシングを通じて不登校児の支援に取り組む。有限会社ティムコーポレーション 安部 光剛さん

近年、いじめ等が原因で学校に行くことが難しい”不登校児”が増えています。平成30年度の文部科学省の調査によると、小・中学校における不登校児の数は164,528人。在籍児童生徒に占める不登校児童生徒の割合は1.7%となっており、その内訳は小学校144人に1人,中学校27人に1人という調査結果が出ています。(参考資料:https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000021332.pdf#search=’%E4%B8%8D%E7%99%BB%E6%A0%A1+%E4%BA%BA%E6%95%B0′

統計上、中学生に至っては1クラスに1人の割合で不登校児がいるという驚きの現状となっています。

今回は、この増え続ける不登校児への支援に取り組んでいる有限会社ティムコーポレーションの代表取締役 安部光剛さんにインタビューをさせて頂きました。

人生に必要な要素を、キックボクシングを通じて子供たちに届けたい

———御社の事業内容を教えてください。

本業は整骨院と、足つぼの治療院です。その流れでリマイスター学院という足つぼのスクールも30年ほど経営しています。これは、日本最古のスクールです。

リマイスターというのは、リフレッシュやリラクゼーション、リボーンの意味+健康のマイスター(職人)になろう!という意味を込めてつけました。

独立開業を目指す方のコースに加え、インストラクター養成のコースもあり、長年たくさんの生徒様に受講いただいています。

これらの本業に加え、最近不登校児支援塾として、ベストキッド東京というキックボクシングジムを始めました。

———何故これまでの事業に加えて新しい事業を始めることになったのですか?

経営実践研究会という会に参加し社会課題をビジネスで解決する勉強をしているのですが、本業を通じて何か社会貢献できないか?ということを考えるようになりました。

そんな中、3年前に立て続けに2名の親御さんから、「自分の子供が引きこもっており、不登校で悩んでいる」とのご相談を受けました。

これは”やりなさい!”と導かれていると感じ、新しい事業に取り組む決断をしました。

———なぜキックボクシングというツールを選択したのでしょう?

私はもともとトレーナーとして、選手の身体やメンタルのケアをしていました。色んな選手と関わる中で、キックボクシングは自分で決めた目標に向け、プランを立てて身体を作り、目標に向けてメンタルを整えていく・・・まるで人生に必要な要素がキックボクシングに集約されているような気がしていたからです。

どんどん元気に、活発になっていく。子供たちの成長が嬉しい

———取り組みを始めて決めてからの印象的なエピソードを教えてください。

やはり、始めたばかりの時のことは印象に残っていますね。

始めよう!と決めたものの最初はキックボクシングを行う場所もありませんでした。経営していた治療院の前に、移転したばかりで空いているコンビニの建物があったのですが、それが偶然治療院の患者さんのお店だったのです。「しばらく貸してもらえませんか?」と賃貸交渉をしてみました。

「何に使うんですか?」と聞かれたので事情をお話すると、「そういうことでしたら、お金は結構ですので是非使ってください」と、なんと賃料無しで貸していただけたのです!

そして、以前に相談を受けた2名のお子さんとキックボクシングをすることになったのですが・・・・実際に彼らに会ってみて引きこもり問題の深刻さを目の当たりにしました。

ジムに来た彼らは、目も合わせてくれない。話しかけても返事もしてくれない。何をしていても喜怒哀楽を感じられない、全くの無表情でした。

試行錯誤しながらコミュニケーションをとり、なんとか初日を終えましたね・・・。

すると翌日親御さんから今朝、息子が学校に行きました!」という電話が来ました。中学に入学して2年間、部屋に引きこもってしまい一度も行けなかった学校に突然行けたというのです。

私は「学校に行きなさい」と諭したわけではなく、まずは純粋に身体を動かすことを楽しんで欲しいと思いキックボクシングをしました。彼らのリアクションは薄く「つまらなかったかな?」と不安を感じるくらいだったのですが、次の日学校に行ったと聞いてびっくりしました。

しかし、嬉しい報告だけではなく、残念な報告もあったのです。

2年間1度も学校に行っていないわけですから、同級生に「コイツは誰なんだ?」と騒がれ、変に目立ってしまったそうです。その上、学校の先生の第一声が「よく来たね!」ではなく、「何故今まで学校に来なかったんだ?」だったそうです。その反応を受けて、彼はまた学校に足が向かなくなってしまったのです。

私はその一連のエピソードを受けて、「不登校の問題は本人だけが頑張るのではなく、周りの大人も一緒に意識を変えていかなければならない」と考えるようになりました。

学校に行くのは止めてしまった彼ですが、私たちのジムにはちゃんと毎週来ていました。

最初は親御さんと一緒に来ていたのですが、一か月くらい親子の様子を見ていると、彼を引きこもりにしている原因はお母さんにもあるのでは?と感じ始めました。

お母さんが子供に干渉し過ぎている、過保護気味だなと感じた私は、「一人で通わせてみましょう」と親御さんに提案しました。最初は聞き入れてもらえなかったのですが、彼も良い方向に変化してきたことや、親御さんとの間に信頼関係が築き上げられつつあったこともあり、なんとか聞き入れてもらえました。

1人でジムに通うようになると、どんどん生気に満ち溢れ、表情が豊な子になっていきました。その子には母離れ、お母さんは子離れが必要だったのでしょう。

心身ともに成長した彼は、再び学校に通い始めることができました。本当に嬉しかったですね。

学校に通うということは教育を受けることですので、この活動はSDGsの目標「4,質の高い教育をみんなに」の達成に微力ながら寄与できていると思っています。

———ジムではどんなカリキュラムを組んでいるのですか?

私たちのジムは、「これを何回やれ」という指導はしていません。ただ来てくれるだけでいいんです。一緒に身体を動かしていくことを習慣にすることで、先週は5回しか出来なかった腕立て伏せが今週は10回出来た!とか、よし来週は15回を目指そう!のように、自ずと自分の中で小さな目標を立てるようになっていくのです。

そして、自分の立てた目標を達成していくことにより、自己肯定感が生まれ、自信がつく。すると、更に自主的に何かに取り組もうとするのです。例えば、自分から挨拶をする、自分から掃除をするというように、どんどん積極性が出てきます。

学校や家庭で”ああしろ、こうしろ”と言われ過ぎてしまい、彼らの心は窮屈になりキャパオーバーになっていたのです。

ただ、週に一回私に会いに来てくれれば良い。私のような大人が楽しそうにイキイキと動いている姿を見せるだけでいい。何をしていてもOKな、自由な場を作ってあげる。話を聞いてあげる。それだけで、人の心はほぐれていくんだなぁと、彼らと向き合い色々な事を試して思いました。

これまでにうちのジムに来た子は数十人いますが、全員が学校に行けるようになりました。

子供だけではなく大人の引きこもりの方も来られたことがありましたが、会社に通えるようになり社会復帰を果たしています。

———どのような手法で、人の心を開いているのでしょうか?

子供たちと関わり始めて分かったのですが、彼らは大人をつまらないものだと思っています。なので、私は振り切って面白い大人で有り続けようとしています。

最近Youtubeチャンネルも開設して、私の取り組みや面白いチャレンジを若年層に届ける取り組みをはじめました。先日は、とあるお笑いコンテストにエントリーしてトリオ漫才にチャレンジしました(笑)

「この人、大丈夫か!?ヤバい!」と思った瞬間、彼らはこっちを向いてくれて親近感を持ってくれます。すると、アドバイスを真剣に聞いてくれるようになるのです。

人生を楽しむ私の姿を見て、大人になっても楽しく過ごせるんだと分かって欲しいと思います。私は子供の気持ちを代弁できる通訳者になりたいと思っています。

地域と繋がり、人と繋がる

———これから取り組んでいきたいことはありますか?

例えば、独り暮らしをされているご高齢の方の家へ、先日購入したトゥクトゥク(三輪自動車)に乗ってお宅を訪問をしてみたり、幼い子供を抱え働きに出れないシングルマザーにビジネスを教えたりしていこうと思っています。

実際に手の届く範囲、自分の暮らしている地域で困ったことを一つ一つ解決していくことが、社会課題の解決に繋がっていくのではないかと考えています。これは、SDGsの目標、「11,住み続けられるまちづくりを」を意識しています。

———昨今のコロナウイルスや地震、天災など予想出来ない猛威が社会を襲っていますが、このような不安定な時代を生き抜くうえで大切なことは何だとお考えでしょうか。

”人との繋がり”が大切だなって思っています。

今の新型コロナの流行や大きな天災があったりすると、不安になるし、どうしたらいいか分からなくなるじゃないですか。でも、人と話したり繋がったりするだけで、自分自身で解決できなくても周りが手助けしてくれることもあります。

私は東日本大震災で大きな被害があった福島県の浪江町の出身です。たくさんの人が地震や津波で亡くなり、被災を逃れた後も生活に困窮したり精神的に不安定になり自殺をしてしまった人を見てきました。

ひとりぼっちになると、苦しい。

でも人と繋がっていれば、本当に困ったときや不安な時に素直な気持ちや現状を吐露できる場があれば、手助けしてくれる人は必ず現れます。

人との関わりを形成していくことが苦手な人もたくさんいますが、そういう人たちが気軽に立ち寄っていけるような地域のコミュニティが、このベストキッド東京でありたいと思っています。

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