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  • 2020年8月26日

サザンの無観客ライブはコロナ時代における新たなエンタメスタイルの礎となり得るか

新型コロナウイルスと日本のエンタメ・ライブ市場

2020年初頭から全世界で猛威を振るった新型コロナウイルス。直近では4-6月の実質GDPが戦後最大の落ち幅を記録したというニュースも報道され、春のようなパンデミックは収まりつつあるものの、未だに私たちの生活や経済に暗い影を落としています。(参考:https://www.asahi.com/articles/DA3S14589800.html?iref=pc_ss_date

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、多くのアーティストが計画していたコンサートやライブの中止・延期を発表しました。2020年のライブ・エンタメ市場は新型コロナウイルスによる打撃を受け、2019年まで伸び続けた6,000億円市場から一転し、3割にも満たない規模になるとみられています。(参考:https://corporate.pia.jp/news/detail_live_enta_20200630.html

そんな暗いニュースが多いエンタメ・ライブ市場において、明るいニュースで目を引いたのはサザンオールスターズが6月25日に横浜アリーナで行った無観客配信ライブ『サザンオールスターズ 特別ライブ2020「Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!~」』の話題でした。

(引用:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200609003309.html

サザンオールスターズが行った無観客ライブはエンタメ・ライブ界の灯火となり得るか

サザンオールスターズによって行われた無観客ライブは、エンタメが無く悶々としていた我々の日常に娯楽をもたらしただけではなく、暗い洞窟に差す光のようにいつまで続くか分からないコロナという暗闇に光を差し、次なる一歩を踏み出す勇気となったように感じます。サザンが行った無観客ライブが次世代のエンターテイメントの「在り方」を示していると考えた理由は大きく分けて2つあります。

1つ目は“オンラインはオフラインの補助的なもの”というこれまでの考えを覆し、圧倒的な成績を残したという点です。

2つ目はライブをオンラインで配信することによってこれまでの“伝え合うライブ”から“想い合うライブ”へとライブの在り方を変えたという点です。これらの点について詳しく見ていきましょう。

圧倒的な記録を残しつつ新たな道を切り開いたサザンの配信ライブ

6月25日に横浜アリーナで行われたサザンの配信ライブは有料配信チケット(1人3,600円)の購入者数が約18万人となり、結果として推定6億5000万円もの売り上げを記録しました。また推定視聴者数は50万人以上という予想を遥かに超えた数字を叩き出したのです。配信ライブの開催会場となった横浜アリーナの収容人数はおおよそ1万7千人であることを考えるとその規模の大きさが伺えるでしょう。通常通り横浜アリーナで観客を入れてコンサートを行った場合と比較し、単純計算でおよそ4倍の収益を得ることに成功しました。(サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019 「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」のチケット販売価格は1枚9,500円)

これはチケット単価を通常より安く設定したことによって、この金額なら観ても良いと思える人が増えた、また、以前はサザンを応援していたけれど最近はご無沙汰、と言う人にとっても手ごろな値段と感じられ購入に繋がったのではないかと筆者は予測しています。さらにコンサートが開催されたこの日は平日の夜ということもあり、都合が悪くなかなか現地に行くことができないと言う遠方のファンにとってもオンライン配信であればと手を伸ばしやすくなったのでしょう。

ライブ配信チケットの価格を抑えるというのは売り上げの減少に繋がるかと思いきや、これまでチケットに手が届かなかった層にチケットを販売することが出来たのと同時に、出戻り組も踏まえ新たなファンを獲得することに成功したのです。

また今回のライブはオンライン配信のため、いかに臨場感溢れる映像を視聴者に届けられるかが命の綱となります。

サザンはこの日の為に通常のライブの興行時よりも多い40台ものカメラであらゆる角度からアーティストの表情を映し続けました。観ている人に一発撮りと感じさせない様なカメラのフレームワークで、まるで編集されたDVDを見ているかのような仕上がりの映像を配信したのです。これまでの通常のライブではそこまで重要視されていなかった配信技術における質と必要性を高め、新たな雇用と需要を生み出すことに成功したと言うことが出来るでしょう。

これまでのライブはステージに上がっているアーティストが主役で観客が声援を送るというのが既存のスタイルでしたが、無観客ライブでは観ている観客に対してどうやって自分たちの想いやステージを届けていくべきかという問題が生じます。主役の逆転が起きたと言っても過言ではありません。これからは「いかに観客に対して質の良い自分たちらしいライブを届けるのか」と言う新たな課題をアーティストに対しても投げかけているのではないでしょうか。

相手が見えないからこそ、伝え合うライブから想い合うライブへ

これまでにも多くのアーティストがライブのオンライン配信、いわゆるライブビューイングを行ってきましたが、今回のサザンが行ったライブのオンライン配信がこれまでのものと違うと言えるのは“無観客でライブを行うことでよりファンとアーティストの絆が深まった”と言う点だと筆者は考えています。

これまでのライブ配信というのは通常通り客席に観客を入れ、アーティストは観客に向けてライブを行いその様子をオンラインで生配信し“ビューイング・視聴”、すると言うものでした。これまでに筆者も何回かアーティストのライブビューイングを見てきましたが、あくまでもアーティストは目の前の観客に対してライブを行っているので、当然アーティストの目線なども会場の観客に向けられたものであり、画面越しの観客はライブを観ている、というよりライブ空間を観ているというのがふさわしい状況でした。

それが今回の無観客ライブでは目の前にいるはずの観客がいない、目の前にいるはずのアーティストがいないと言う、アーティストにとっても公演を見に行く側にとっても「いない」ことが前提となりました。

このような状態を果たしてライブと言うことができるのかと思っていましたが、今回のサザンのライブを観ていると「目の前にいない」状況をお互いに感じることで、“声援を送る・送られる”という関係性から“お互いの存在を想い合う”という関係性になったのではないかと感じました。

視聴者はアーティストが目の前にいないからこそ、直接目で見て、耳で感じられないからこそ、自ら主体的にアーティストの想いを汲み取ろうと、一瞬も見逃すまいと画面に釘付けになり、アーティストもまた、目の前に観客がおらず、自分たちの想いが伝わっているか不安な気持ちを抱えながらも「ここにいるから」「一緒に頑張ろう」とエールを送り続けるのでしょう。

目の前には「いない」けれども「確かに我々は存在している」ということをお互いに感じることでアーティストと観客の絆がより一層深まる、そんなことを体験させてくれたライブでした。

今後どのようななスタイルが主流になっていくのか、これからのエンタメ・ライブ業界への期待

今回行われたサザンの無観客ライブですが、 Twitter上でも様々な意見が寄せられています。

前代未聞の事態の真っ只中において、ウィズコロナ・アフターコロナ時代のスタイルを確立しようと皆が暗中模索する中、サザンオールスターズは新たなエンタメ界の未来を切り開いてくれました。

固定カメラだけで映像を配信するのではなくドローンでステージ上を撮影し、それを配信しながらライブ映像を配信するアーティストも出てきたりと、ライブの形態はどんどん変わりつつあります。これまで「お金を払って同じ場所に集い、時間を共有する」というスタイルだったライブがこれからどのように変化し私たちを楽しませてくれるのか、とても楽しみです。

 

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