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  • 2020年6月29日

「SDGsな人々#9」 <農業×福祉>胡蝶蘭栽培で障がい者の所得倍増を目指す!NPO法人Alon Alon 那部智史さん

厚生労働省の調査(https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000571834.pdf)によると、2018年の就労継続支援B 型事業所の月額平均工賃は16,118 円。時給にするとわずか241円ほどです。障がい者年金をプラスしても十分な収入とは言えません

企業による障がい者の義務雇用も進んでいますが、雇用総数81.2万人に対して比率は身体障がい者が42.3万人(52%)、知的障がい者が約18.9万人(23%)・精神障がい者20万人(24%)と、知的障がい者・精神障がい者の雇用率はまだまだ乏しい現状あります。
*参考資料:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000132445.pdf 

これらの障がい者の雇用が少ない社会課題を解決しようとする取り組みが、SDGsの達成目標、「1,貧困をなくそう」「8,働きがいも経済成長も」の達成にも通じているのです。

今回は障がい者が抱える社会課題を解消しようと立ち上がった、NPO法人AlonAlonの代表理事・那部智史(なべ さとし)さんにお話を伺いました。

NPO 法人AlonAlonの立ち上げと思い

———まず、『AlonAlon』を立ち上げたきっかけを教えてください。

私の子どもは知的障がい者です。

世の中を知的障がい者である彼の視点から見てみると、色々な不自由が存在することに気が付きました。特に、障がい者には健常者とは同じような経済環境がありません。そこを解消するような、障がい者にもより良い経済環境が与えられる事業をしたい、と思ったことがこの事業を始めたきっかけです。

私は大学を卒業後大手企業に就職をし営業職をしておりました。営業成績もよく、「那部君すごいね」と一目置かれる存在だったのですが、障がい者の息子生まれてから周囲の人が私にかける言葉は「すごいね」から「かわいそうだね」に変わりました。

「かわいそうだね」と声を掛けられ続ける環境が辛く、うつのような状態になり会社に行けなくなりました。

会社を休んでいる間、この状況を克服し、「かわいそう」という評価を「うらやましい」に変えるにはお金を稼ぐしかない!!!と思い、29歳で独立しITの会社を立ち上げました。

3名で立ち上げた会社でしたが、あっという間に150名を超える従業員を抱える会社になり、経済的に豊かになりました。

私自身、息子はかわいいけれど社会に対して”NO-GOOD”だと思っていました。レストランに行っても目を離した隙に他のテーブルの料理をちょっと食べちゃうし、社会から隠れて過ごすような部分も正直ありました。

けれど、自分が40歳になる頃、ふと社会から「NO」と言われている息子の姿に疑問を感じるようになりました。「障がい者を受け入れられない社会がNO-GOODなのではないか?」そう思うと、今の仕事が急に無価値に感じ、会社を売却し今の事業の形成に取り掛かかりました。

———なぜ胡蝶蘭栽培を事業に選ばれたのですか?

現在、農業は高齢化が進み、若い世代が就労しない問題が顕著になっている産業で、10年後には日本の1次産業は破綻するとまで言われています。

そこに、働きたくても働く場の少ない障がい者が活躍できる場を提供することは、誰も排除することなく新たな市場に参入できると思いました。

胡蝶蘭栽培を選んだ理由は私自身会社を経営している時に、祝い事には必ずたくさんの胡蝶蘭を頂いたり、自分も送ったりしていた経験があり、企業での需要が高いと目をつけていた商材だったことと、慶弔用の高級花で値崩れもしにくいので安定した収入を得られると思ったからです。

———事業のしくみを教えてください。

ひとつは、バタフライサポーター制度です。

ご賛同いただけるみなさまから胡蝶蘭の苗の購入代金を寄付として頂きます(例:1万円で1,000円の苗10株分)。入所者がその苗を立派な胡蝶蘭に育てて一般企業向けに販売し、販売した胡蝶蘭の代金が入所者の収入となるのです。また、

バタフライサポーターとして寄付いただいた皆様にも、寄付金額と同等のお花を全国どこへでもお届けするという制度を設けています。例えば、来年の母の日に送る1万円相当の花束を、今バタフライサポーターとして寄付して頂いたら、寄付として社会貢献に携わるだけではなく、母の日に1万円相当の花束を送ることが出来るのです。

ありがたいことに現在1,500名ほどのサポーターがおり、その14%のサポーター様がボランティアでお花の営業をして頂いております。その結果お花を買っていただける企業様が年間約200社ずつ増えております。ふたつめは、農園の貸し出しです。

年間でたくさんの花を購入して頂いている企業に農園を貸し出し、作業所のメンバーを雇用して貰います。

企業側は、経費をかけて購入していた贈答花を自社で栽培することができ、かつ、障がい者の法定雇用率の解消にもなりWin-Winの構図となります。障がい者を雇用することも可能になります。

また、農園を借りるだけではなく、自社で農園を持ちたいという企業も出てきました。

そして、全国各地に企業の自社運営の農園を連携させることによって、①同じDNAの胡蝶蘭を提供できる②在庫の適正化がはかれる③物流の最適化ができるという3つのメリットを生み出せる障がい者雇用でお花の栽培をしている会社のビジネスプラットフォームの提供を構築中です

障がい者の月額工賃の倍増と就職率UPを目指す

———AlonAlonの障がい者所得倍増計画とはどのようなものでしょうか。

2018年の就労継続支援B 型事業所の月額平均工賃は16,118 円。これを月間10万円に引き上げることを目標に運営しています。

また、栽培技術を習得したその先には企業雇用も可能です。B 型事業所で1%ほどと言われている就職率ですが、うちは2年間で50%となっています。企業に就職することにより、より高い収入を得ることが出来ます。

———ほぼ10倍の収入に!? すごいですね・・・・。

福祉作業所には、お財布が2つあります。

ひとつは、国からもらえる収入・訓練等給付金収入です。障がい者を何名お世話しているかによってその報酬額が変わり、人件費や運営費として利用できます。

ふたつめは、障がい者の人たちが働いて出た利益を配分するお財布です。これは、運営側の収入にはなりません。すべて働いた彼らへの報酬です。

多くの作業所は、国からの給付金収入を確保することで精一杯で、障がい者の仕事からの収入を確保することが二の次になってしまっている部分があると思います。

AlonAlonでは、経営陣はそれぞれ別の生業を持っているので、訓練等給付金収入に頼る必要がありません。また多方面で収益事業を展開しているため、”仕事からの収入”に注力することができています。

———知的障がい者の方たちにとって、胡蝶蘭を栽培することは難しくないのでしょうか?

うまくいかない事や出来ない事が多かった彼らは、自己肯定感が低く、人に何かをやってもらうという状況に慣れてしまっているケースがあります。自分から率先して動くためのモチベーションの管理が重要だと考えています。

自分から率先して動くてもらうために、作業を細かく細分化し、簡単な事から始めることによって出来ることを増やしていきます。出来ることが増えていき、褒められるようになると、彼らの自己肯定感が高まっていきます。

また、簡単な作業をしている人の横に、あえて難しい作業をする人を配置することで、「あの作業ができるようになりたい!」という労働意欲も芽生えてきます。

AlonAlonでは、「機会の平等はあっても、成果の平等はない」という考えの元、皆同じ工賃で働くのではなく、出来ることが増えると工賃も上がるということを明言しているので、それも仕事を覚えるモチベーションになっていると思います。

グループホーム事業も始めており、こちらも松・竹・梅と明確にめりはりのついた形で運営していきたいと考えています。無料で入所できるような施設から、ちょっと費用は高いけど人が羨むような素敵な施設まで。皆が上を向く力になればいいなと思っています。

———この事業を始めて嬉しかったことはなんですか?

生活介護を受けている女の子が、1年間AlonAlonの農園(就労継続支援B型事業所)で働いた後に大企業に就職が決まった時は感動しましたね!

あとは、うちの胡蝶蘭が”品質が良い”と評価されていることです。

初めは、「障がい者の作る胡蝶蘭なんて・・・・」と批判的な意見もありました。しかし、実際に納品された胡蝶蘭を見てみると、他の花さんの胡蝶蘭と比べても全く引けを取りません。

みんなで丁寧に仕上げた胡蝶蘭が評価されて、購入してくれた皆さんにも喜んでもらえて、本当に嬉しかったですね。

今後は<観×農×福>の促進を目指していきたい

———那部さんが、今後取り組みたいと思っていることはなんですか?

これからいくつかの取り組みが始まっていきます

木更津に新しくできるホテルで、障がい者を派遣し働いてもらう計画があります。

日本は、コロナが終わると観光立国になっていくと思いますので、このような観光/農業/福祉=観・農・福という仕組みをどんどん広めていきたいと考えています。

ドイツに”障がい者が働く”というブランディングで運営しているホテルもありますし、実現可能なビジネスモデルだと思っています。

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