前回の記事では、アトレ吉祥寺店が取り組む様々な地域を巻き込んだプロジェクトを紹介してきました。その中の一つ、「ハニカムプロジェクト」のビジョンを踏襲したコミュニティ型マルシェである「コミュニティスタンド」にキクエスト編集部は注目しました。
今回はアトレの皆様に加え、養蜂家の金子裕輝様、コミュニティスタンド運営メンバーの松丸里歩様、くらしにツナガルHātWorkの坂口和隆様にお話を伺うことができました。アトレの取引先として、事業パートナーとして、共に活動する金子様、松丸様、坂口様からコミュニティスタンドへの想いやこれまでの苦悩を深堀りしていきます!
コミュニティスタンドとは
(引用:http://communitystand.tokyo/#home)
コミュニティスタンドとは、吉祥寺駅1階の南北自由通路「はなこみち」で月1回、地域に根ざして食の安全や地産地消への意識を高めるコミュニティに取り組む出店者が集まるマルシェ。
(※毎月第1土曜・日曜に開催。現在は新型コロナウィルスの影響で2020年3月から開催休止中。2020年5月時点 最新情報はこちら)
コミュニティスタンドの立上げと苦労
———コミュニティスタンドを運営し始めて約1年経ちますがこれまでを振り返ってください。
金子様(以下、金子):コミュニティスタンド立ち上げの時は、足を止めて見てくれるお客様はなかなかいませんでした。しかし毎月開催していくことで、少しずつコミュニティスタンドを目的に来てくれる方が増えてきました。立上げから1年たった今、ようやく少しずつリピーターのお客様ができてきました。最近では出店者さんの数も増えてますし、それに伴って認知も進んできて、特にこの2-3ヶ月は売上がかなり増えてきました。(※2020年3月時点)
一方でこういう取組みを継続させることの難しさはたくさんあります。例えば、まだまだ知名度が無くてなかなか出店者さんが集まらないとか。
また「事業」という目線でみると、収支を考えなければならない点とか。
一般的な企業で考えると継続できなかったかもしれない。
そんな中、場所を提供してもらって取り組みが継続できているっていうのは、アトレ様にすごく感謝しています。
数字だけを見ると、「もうそんなのやる必要ないよ」っていう判断になったかもしれません。
でも、そうせずに、ここまで継続できたのは、うまくいかない時期でも企業と地域という視点で一緒に取り組んでこられたっていう部分が大きいと思います。
———坂口さんはこれまでの取り組みをどのようにお感じですか?
坂口様(以下、坂口):出店者の立場で言うと、武蔵野市はマルシェが出店するような機会が結構あります。私たち小規模事業者は、出店料の価格や主催者がしっかり集客できているかなど、様々な条件を見ながら出店を決めるわけです。
そんな中、アトレさんのような大きな企業のマルシェであり、吉祥寺駅のように多くのお客様がいらっしゃる場所で出店ができるということは非常にありがたいと思います。
また、私は南アジアのフェアトレードのものを中心に販売をしているのですが、「フェアトレードを消費者に説明ができる機会」という風にも捉えることができるんですね。
単に物を売るのではなくて、フェアトレードに詳しくない一般の方に対し説明できる機会は、貴重だと捉えています。
コミュニティスタンドで購入していくお客様層
———コミュニティスタンドで購入していくお客様はどんな方がいらっしゃいますか?
坂口:接客をしていると、たまに値札を見ないで買う人がいるんです。これって他の地域にはあまりないと思います。特にフェアトレード商品なんていくらするか分からないでしょ?十万円くらいするかもしれないし。千円かもしれない。なのに買ってくださる方が多いのはこの地域の特徴かなと思います。武蔵野市の方は経済レベルが高いのでそういう方が結構いらっしゃるんですね。フェアトレードみたいなちょっと小難しいことも理解しようとする努力をしてくださっているのかなという気がします。
金子:この地域の方は、皆さん勉強しようとするんですよね。難しい話をたとえ興味のない話でも聞こうとしてくれる。街のグランドデザインとかも広場で発表すると、足を止めてこの街がどんな風になっていくのか興味関心がある・・・。
また、人にお勧めしたいっていう人が多いのも特徴だと思います。はちみつもお土産やギフト用に買っていく人や、想いのあるものへお金を払うという意識のある人が多いと思います。
坂口:コミュニティスタンドに出店している皆さんの扱っている商品にはストーリーがあると思うんです。ストーリーのあるものを販売しているので、お客さんとコミュニケーションが生まれ、すごくいい雰囲気ができていると思います。
松丸様(以下、松丸):お客様同士や出店者とお客様で、「オススメのお菓子作っている人がいて、この人はこんな人で・・・」というように紹介したり、会話があってコミュニティらしい雰囲気があるマルシェだと思います。
アトレ川村様(以下、川村):普通だったら美味しい店とかは人に教えたくないという感覚だけど、コミュニティスタンドは、知り合いを紹介して良いですかという会話が自然に生まれてきています。
そういう人たちの周りには、人が自然に集まってきます。
これは、やろうと思ってもなかなかできることではないですし、利益だけを追従していたらこの雰囲気は難しいと思う。
コミュニティ型マルシェのつくり方
———人が自然とあつまる良いサイクルになっているんですね。
川村:そうですね。こういうのが機能して「コミュニティスタンドでもっとこんなことやったら面白いんじゃないの?」や、「こんな面白い人がいるからコラボしてみたら?」と企画が生まれてきます。単なるマルシェではなく、コミュニティとして面白くなるよう、繋がりを色々作っています。
松丸:出店者申し込みのフォームでは、お店の名前や何を売っていますということだけでなく、コミュニティスタンドをどういう場にしたいですか?という質問も入れています。
なので出店者様にはそういった意識は持ってもらえているのかなと思います。
例えば吉祥寺近辺のお店だったら、単に商品を売りたいというだけで終わらずに、「地産地消のような形でお菓子を作って販売したい」とか、「売ってる人に会いに行こうと思える場にしたい」とか出展者様が想いを持って参加してくれています。そういったものは普通のマルシェではないのかなと思っています。
———単に売上をつくるだけではないということですね。
金子:そうですね。今、購入スタイルは2極化してきているのではないでしょうか。
どこにでもあるものをネットとかで1円でも安く買いたい人たちと、ここでしか買えないものをストーリーを含めて買いたい人たちに分かれてきていると思います。
僕らの商品の位置づけとしてはローカル(=地域性)の部分と、サスティナブルな部分で特化していくこと。でもまだまだ僕たちも未熟なところがあるので、運営側としてもそれをこれからも突き詰めて、やり続けていかなくてはならないと思います。
フェアトレードや地産地消は商品購入の選択理由に繋がる!?
———話は少し変わりますが、年々、消費者の社会や環境への配慮や意識は高まっていると思いますが、実際にマルシェにいらっしゃるお客様と接していて感じることはありますか?
坂口:そうですね。私はフェアトレードには30年くらい関わっていますが、ここ数年、フェアトレードって伝えると、「あぁ、知ってる」って言ってくださる方が増えてきているのは間違いないと思います。
今は、教科書にフェアトレードが載っているので、若い人は理解している人が多いですし、我々中高年の人たちも、エシカルやフェアトレードなど環境にやさしいってキーワードは購買する際の一つの条件に選ばれてきているなっていうのが実感としてはあります。
———金子さんはいかがですか?「地産地消」の商品を扱っていらっしゃいますが、他社さんの商品より選ばれているなという実感はありますか?
金子:やっぱり増えてきているという感触はあります。
僕もサラリーマンから転職して6年目なんですけど、始めたときから比べると環境問題に対してここ2,3年で急激に進んだなというのを感じます。それでミツバチの役割とかを何かで知ってくれて、地域のもの(=吉祥寺でとれたもの)を買いたい、人にもお勧めしたいという人は確実に増えています。
規模を大きくしていく際の課題について
———コミュニティスタンドは今後、吉祥寺だけでなく武蔵野市を超えて中央線沿いに展開を拡げてもいいのでは?
金子:もともとコミュニティスタンドは、吉祥寺という街に貢献したいっていうのが始まりでした。
それが面白い取り組みになって、中央線の奥まで広がって、ヒトの交流が活性化されると嬉しい。それがより広がっていけば良いと思っています。
しかし課題としては、コミュニティスタンドは少人数の運営メンバーでやっているので、手が回るかが難しい。
松丸さんが入るまではソーシャルメディアへの発信もできていなかったのです。僕らの思いが多くの人に届いて、その人達が少しずつ参加してくれるというのがこれからの課題だと思います。
松丸:私はもともと青山にある、Farmers Market(ファーマーズマーケット)でパートタイムで働いており、そこで金子さんと知り合いました。私も中央線沿線に住んでるので、吉祥寺のことを知って、マルシェを吉祥寺でやるって面白いと思って参画しました。
個人的に環境問題とか健康問題に興味があります。私達の世代は当たり前にそういったことに意識を持っている人が多いと思います。
———松丸さんは大学生とお聞きしましたが、若い世代から見てコミュニティスタンドをこうしたら良いというアイディアとかありますか?
松丸:名前がコミュニティスタンドっていうだけあって、コミュニティを形成するものなのだと思うので、中央線という地域で、お店の方々とコミュニティ(繋がり)を作ることに力を入れていきたいと思います。
金子:今の世代は、環境とかサスティナブルの考え方が僕たちより進んでいる。自分たちの世代は終身雇用とか年上は絶対だという雰囲気があったけど、もうそうではなくなってきていると感じるし、そういう硬直化した組織や活動にならないために柔軟でなければならないと思います。
ソーシャルとビジネスを両立させ、これからも続けていく
———地域密着型でコミュニティ形成ができて来ているソーシャル面の充実の一方、続けていくにはビジネス面での充実も不可欠かと思います。
川村:コミュニティスタンドはJRから借りている場所なので場所代もかかっています。だから売上も上げないといけません。JRからの条件が変わると場所代が高くなることもあります。そうするとコミュニティスタンドに出店する人の出店料が上がるなど、出店するバードルが高くなる課題もあります。
金子:企業と一緒に地域活動をやっていく上で、お金の問題は絶対に生まれるものだと思います。
単純に無料で場所を貸してあげるよとなっても、取組み自体がCSRとか寄付的な感じになって。上下のような関係ができちゃうとしたらそれは少し違うのかなとも感じます。
だから、僕は出店料がかかる、仮に値上げになるとしてもお金は取るべきと考えます。
出店料があるからこそ、出店側も取り組みに対するコミットメントが増すと思う。商品のストーリーがブラッシュアップされ、きちんとお客様にメッセージが伝われば自ずと売り上げはついてくると思います。それが応援型の消費をするマーケットづくりに繋がっていくのだと思います。
———なるほど。コミュニティスタンドは、地域活性化というソーシャルな側面と、事業というビジネスの側面を兼ね備えた取組みなんですね。皆様の想いやお考えをお聞きして今後もどのように進化していくのか、とても楽しみです。本日はありがとうございました。
編集後記)これからの働き方、社会の未来をつくる
———インタビュー終了後、少し緊張を解いて座談会へ
金子:僕は松丸さんのこれからを応援したいなと思っています。
新卒で企業に入らず、自分の武器を生かして仕事を作っていく=フリーランスをやっていくっていう選択ってなかなかできないので。
こういう選択ができるのは本当に貴重で、僕らの世代からしても楽しみです。型がないからこそ本当に自分という型だけで新しいものを創っていってほしい。
松丸:今はそういう選択肢がある時代だと思います。
私達の世代がすごいのではなく、色んな時代を経て今の時代に生きているのでそういった選択肢があるならそれを試してみようかなと。
竹内:働くことを意識したときに就職という選択肢も含めて考えたのか、初めからフリーランスでいこうと思ったのか、いかがですか?
松丸:働くというのは何かしらのプラスの影響を社会に与えることだと思っています。一方で自分が理想と100%合致する企業は無いなとも思い、就職は考えませんでした。
だからといって自分一人でやっていても影響力は低いです。そうこう考えているうちに、コミュニティスタンドのような場で、自分の力やスキルを投入してそれが社会にインパクトを与えられたら、それってすごく意味があるなと思ったのでフリーでやろうと決めました。
1つの企業に属して、その企業がやっていることしかできないのではなくて、多面的にやっていくのが自分の中では自然な選択肢でした。
坂口:すごくしっかりされていて刺激になりますよね。大学生でこんなに話せるのかって笑
川村:大学で勉強して3~4年生の時期にスキルを形成して、社会に出ていくというのはこれからモデルとしてすごく理想ですよね。
金子:それを自分で設計するということがいい意味での世代間ギャップですね。これからは自分がやりたいことを選択し続けられる人が強い。これまでの固定観念や先入観を外していかないといけないと思っています。
そういった意味で学生さんたちと話せる機会はすごく刺激になります。
未来の社会の為にできることを考えなきゃいけないと思ったし、負けないように頑張らなきゃいけないと松丸さんのような方たちから学びました。
一同:色んな世代に刺激を与えていますね。