「どうぞ。上がって下さい!」気さくな感じで奥から現れたのは、株式会社 太陽住建の代表、河原勇輝さん。
取材は横浜市磯子区にある、空き家をリノベーションしたオープンスペース「Yワイ広場」で行われました。
このYワイ広場は、太陽住建が取り組む「空き家プロジェクト」の一環として、同社が借り上げた物件をリノベーションし、地域に解放したもの。今では近隣住民や地元の事業者が、料理教室やワークショップなどの様々な用途で利用しています。
このように、地域の課題に地元の中小企業として取り組んだ事例が高く評価されている太陽住建。
今日は太陽住建の代表である河原さんに、空き家プロジェクトや障がい者雇用など、同社が取り組むSDGsと持続可能なまちづくりについてお聞きしました。
「超地域密着型企業」として地域に関わり、地域課題の解決を目指す
———さっそくですが、持続可能なまちづくりへの取り組みを教えて下さい。
僕たちの本業はリフォーム会社ですが、「超地域密着型」企業として、住民のみなさんと一緒に地域課題の解決を目指しています。特に大切にしているのは地域との関わりです。地元のお祭りに参加したり、ゴミ拾いをしたり。あとは社員が全員消防団に加入しています。
今いるこの場所(Yワイ広場)についてもそうです。ここは元々空き家だったんですが、僕たちの空き家プロジェクトの一環として、地域の人たちと一緒にリノベーションしました。
地域の人に、作るところから参加してもらうんです。具体的には畳を一緒に替えたり、テーブルを一緒に作ったりもしました。その時に培ったDIYのスキルは必ず後に役に立ちますし、それをまた地域に還元してもらえたら本当に嬉しいですね。
この「作るところから参加してもらう」というのはすごく大切だと思っていて、それがSDGsの「11. 住み続けられるまちづくりを」に繋がると思っています。僕たちはSDGsを2030年までの単なる目標というだけではなく、日々のターゲットに落とし込んでゴールまでの道のりを考えています。
今は地域課題への取り組みを通して、「11. 住み続けられるまちづくりを」と「12. つくる責任、つかう責任」へのゴールを考えています。
SDGsへ向けた地域課題への取り組み事例① 空き家プロジェクト
———SDGsについて深くお考えで、本当に素晴らしいと感じます!具体的に、地域課題への取り組みとはどんなことをされてきたのでしょうか。
僕たちが今、一番力を入れているのが「空き家プロジェクト」です。最近は空き家問題がテレビなどでも取り上げられるようになって来ましたが、2033年には3軒に1軒が空き家になると言われています。
空き家問題の多くは、物件のオーナーがわからないことです。
僕たちはそれを、地域の人々との話し合いの場を作ることで解決してきました。横浜市と取り組んだ「リビングラボ」という仕組みが、空き家問題の解決にとても役立ちました。
———リビングラボとはどういう仕組みですか?
本社を横浜市磯子区から南区の井土ヶ谷に移転したんですが、その時に、まずは「超地域密着企業」として南区をよく知ろうと思いました。
具体的には会社近辺の町内会や事業者さんを回り、週に一回の「井土ガヤ会議」というのを開いたんです。まちの小さなことから大きなことまで、課題を自分たちで解決しようと話し合う場です。
その「井土ガヤ会議」に、ある時横浜市の政策局の方が参加してくれて、『これは市が目指す「リビングラボ」という活動そのものだ』という話になったんです。
リビングラボとは海外で発展して来たまちづくりの仕組みの一つで、市民が中心となり、そこに企業や自治体、大学などの教育機関など様々なステークホルダーが参加して、一緒に生活向上のための活動や地域課題を解決していく仕組みです。
僕たちは地域課題をボランティアではなくビジネスで解決していこうとしていて、それが横浜市の目指すリビングラボの形と一致した。
そのリビングラボで一番話し合われたのが、地域の空き家問題だったんです。
———リビングラボでは、どのように空き家問題に取り組まれたのでしょうか?
リビングラボには、地域の様々な人が参加しています。
町内会長などのずっと地域に住んでいる方も参加されていて、そうするとあそこの物件は誰々が持っているよって教えてくれたりするんですね。
地域に昔からある不動産屋さんが、あの物件のオーナーを知っているけど自分が仲介するとお金がかかるから、今度紹介するから直接やりとしてって言ってくれたこともあります。
———新しく地域に入り、その土地の人と話し合うのは正直難しい部分も多いと思うのですが、特に気をつけていることはおありでしょうか?
きちんと対話をすることです。
町内の代表の人に挨拶に行き、例えば工事などをして大きな音が出るときは、「〇〇日は大きな音が出ます」というように、しっかりと情報を発信していく。
やっぱり顔を合わさないとわからないことが多いんですね。その地域の長は、ちゃんと挨拶をすると何かの時には手を貸してくれますし、いろんなところで、実は最近こういうことをしている人がいてねと話をしてくれます。
今まで勉強のためにいろんな空き家物件を見てきましたが、正直、補助金ありきの物件が多かったです。
補助金を活用してデザイナーが入りかっこよくはなったけど、あとは学生に運営を任せっぱなし、そういう事例が多いんです。地域の人は敏感で、あそこは何やってるかよくわからない、まあ勝手にやらしておけばいいのよとかそういう感じになってしまう。
それでは地域の人は誰も利用しません。結局、地域の人たちで運営していないと、持続可能な社会にはならないんです。
建物を魅力的にしていくのではなく、地域を魅力的にしていきましょうということです。
SDGsへ向けた地域課題への取り組み事例② 障がい者雇用
———他にも地域課題の解決へ向けた取り組みをされていますか?
最近は、障がい者雇用にも力を入れています。
最初は試行錯誤の連続でした。雇ってもすぐ辞めてしまう人がいたり、施設の方から断られたりして、ここ5、6年でようやく形になってきました。
———障がい者雇用をされるようになったきっかけは何かあるのでしょうか?
以前、ある自治体で太陽光パネルを設置する仕事がありました。
自治体がクライアントだったのですが、受注後に、工事業者はその自治体の地元の業者を使ってくださいねと言われたんです。僕らは工事をする会社なので、そこを変えられたら利益を出す場所がありません。そう掛け合っても、「規約に書いてありますよ」と言われてしまったんです。
どうしようかとなった時に、以前から考えていた障がい者雇用のスキームをここで作ろうと思い立ちました。具体的には、現場の近くの障がい者施設を一軒ずつ回り、指導は僕たちがするので一緒に作業をやってもらえませんかと相談しました。
それで自治体の方でもOKが出て、そこから障がい者雇用をやり始めたんです。
障がい者の方は、一人一人特性が違います。
こういうケースにはこうだとマニュアル化するのではなく、いろんな人がいるというのを理解して、一つずつ対応して行っています。
現在は、SDGsの同時達成モデルとして、行政と一緒に障がい者雇用に取り組んでいます。
———河原さん自身は、小さい頃から障がい者との関わりがあったりされたのでしょうか?
実は僕自身、小学校2年生の時に吃音がひどく、普通学級に進学できないと言われたことがあります。
今も吃音はあるのですが、実は5年前に大きな転機がありました。
この障がい者雇用のスキームが、あるビジネスオーディションに応募したら受かってしまったんです。大きな会場でプレゼンをしなければいけなかったんですが、僕は当時吃音がひどくてプレゼンなんて考えられませんでした。
でも、無理やりステージに上がり、ライトが当たった瞬間に、もう逃げられないと思いました。
僕はずっと吃音を隠して来たんです。でも、もう隠せないと思って開き直りました。
もちろんその時も言葉に詰まり、満足のいくプレゼンなんてできませんでしたが、それ以来何度も試行錯誤を繰り返して自分の中でテストし、今ではこうして月に何度かプレゼンをする機会を得ています。
工務店からライフスタイルカンパニーへ
———多くのことに挑戦して来られた河原さんが、これから挑戦しようと思うことはありますか?
これからは、僕たちは単なる工務店ではなく、ライフスタイルカンパニーを目指そうと思っています。
障がい者の方もやりがいを感じ、僕らもビジネスにつながるような、持続可能なビジネスモデルをやって行きたいです。
コロナの影響で、働き方は変わります。
出社して帰るまでが仕事ではなく、ライフスタイルの一環に仕事があるのが普通になってくるでしょう。
企業で行われていた研修などはなくなり、今の空き家プロジェクトのように個人が地域で学ぶ重要性が増してくると考えています。
そんな中で僕たちは次の時代に残せる仕事をして行き、超地域密着企業としてもっと地元に愛される企業になりたいと思っています。