「起業家シェアハウス」「英会話シェアハウス」などのコンセプト特化型シェアハウスを運営する株式会社 彩ファクトリーの代表である内野 匡裕(うちの まさひろ)さん。
彩ファクトリーが運営するシェアハウスでは、SDGsの「4 ,質の高い教育」と「11, 住み続けられるまちづくり」が高度に展開されていました。
2つのゴールに向けた取り組みが合わさった結果、そこに誕生したのは「助け合って解決していく社会」。
SDGsの観点から、新しいシェアハウスの形と、そこで暮らす人々の価値観の変化を紐解きます。
コンセプト特化型シェアハウスを実現してきた
———シェアハウス事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
13年前に、「入居者40人中、半分が外国人」というシェアハウスに住んでいました。
シェアハウスに住み始めたきっかけは英語です。どうしても仕事で英語が必要だったんですが、当時は英会話スクールに行く時間すらないほど忙しかったんです。
だったら外国人の方と一緒に住めば自然と英語が身につくのではないかと考え、たどり着いたのがシェアハウスでした。
そこでの生活が、私自身の価値観を大きく変えたんです。
当時、「いい会社に入り出世していく」というレールの上にいるのがいちばん幸せだと思っていました。
そして一度そのレールから外れたら、もう二度と元には戻れないというプレッシャーがあり、それが私自身を苦しめてもいました。
でも、フリーランスや人と違う生き方を選んでいる人と語り合ううちに、どこで何をしていても、自分の考え方次第で幸せになれるんだと思うことができるようになった。
それは私の中で大きな変化でした。
そして、当時の私自身のように、生き方に悩んでいる同世代の若者に向けて、自分と違う価値観を持つ人と語りあう場所を作りたいと思い、シェアハウス事業を始めたのです。
———どうして「起業家シェアハウス」「英会話シェアハウス」などのコンセプト特化型シェアハウスにしたのでしょうか?
事業を始めた10年ほど前は、まだシェアハウスといえば「安宿でしょ?」というような、お金のない人が「節約のために住む場所」という見方をされることが多かったんです。
そこで「起業を目指す人向け」「英会話を学びたい人向け」などのコンセプト特化型にすることにより、自分を変えたい、何かを身に付けたいと思う人に向けて目的を明確にしました。
おかげでここ5~6年でイメージはすごく変わり、シェアハウスは当たり前の選択肢になってきたと感じています。
実は最初から、本当に私たちが提供したいのは、生活だけではなく繋がりや学びの機会だったんです。
現代は、ものは豊かなのに、自分の人生を幸せだと思っていない人が多いという課題があると感じています。
その解決のためには、どんな人と会うか、どんな会話をしてどんな気づきを得るのか、そしてそれを受けてどんなアクションを起こすのかがとても大切だと思うのです。
私自身がシェアハウスに住んで価値観が変わったように、良い出会い、良い学びが、きっと人生の価値観を変えてくれます。
———結果的にそれが、質の高い教育を提供することになったのですね。
はい。質の高い教育とは、テストで高い点を取れるようにすることではありません。
人生の楽しみ方の価値観を得るための学びが、いちばん大切だと考えます。
シェアハウスは、国籍も年代も生きてきた経路もバラバラ、だからこそお互いに、そういう人生の生き方もあるんだ、そっちにいってもそういう楽しみ方があるんだという考え方を交換する機会でもあるのです。
入居者の変化により、新しいコミュニティの形が生まれ始める
最近の大きな変化は、60代の方がどんどん増えてきたことです。年齢に関係なく、目標を達成するために新しい人生にチャレンジしたいという価値観の人が増えてきました。
「もう歳だから」とか「今からなんて無理だから」と自分自身に蓋をせずに、新しい環境に身を置ける人が増えているんです。
これは本当に嬉しいことですし、何より、相手が自分とは違う属性の人であればあるほど、話し合った時に学びは多い。
年配の方が若い女の子に料理を教えるなど、同年代の間では共通すぎて当たり前になっている自分の価値が、属性が違うほど発生しやすいんです。
それにより、自分を誇らしいと思えることが本当に素晴らしいですよね。
———入居者の方が変化していくに連れて、何か変わったことはありますか?
多くの方が自分の学びのためにシェアハウスを選択するようになって、私たちが提案するシェアハウスの形も少しずつ変わってきました。
最初はシェアハウスを作るのに、もう使われなくなった社員寮をリノベーションしていたんですよ。
90年代のバブルの頃に社員寮はたくさん建てられましたが、実はそのほとんどは、地主さんが建物を建て、それを企業が20年契約で借りているという形だったんです。
契約から20年が経って人々の感覚も変わり、企業側が再契約しなくなってしまった。
そうすると残されたオーナーさんは困ってしまうんです。
もともとが社員寮として設計されているので、普通にアパートとして貸すこともできない。半ば廃墟のような状態で寝かせてしまっている物件が多かったんです。
築20年なら、少し手を加えれば住むのに全く問題ありません。
私たちにとってもメリットがありましたし、何より古いものを作り変え、新しい価値観で社会に還元されるような商品を作っていきたいと思っていました。
ですが今は、シェアハウスに様々な年代の方が増えていくに連れて、今までとは違うタイプのシェハウスも作っています。
アパートメントタイプで、子育て中の家族もプライベートを保てるというような形のものもあります。
それはまるで、小さな、誰もが顔見知りの村を、ぎゅっと建物に凝縮したみたいな環境になっているんです。
シェアハウスの中が小さな社会になってきたと感じています。
SDGs社会が後押し!「助け合って解決していく社会」がシェアハウス内にできています
———この先取り組んでいきたい社会課題はありますか?
現代の日本では、一人暮らしがかっこいいといったような、「個」に偏った価値観が広まっていると思います。
個で暮らしていくというのが正解のような価値観が、かなりここ数10年で広まっているように感じます。
ですが、人が1人や核家族という小さい単位で、全ての問題を解決しながら生きて行くのはすごく難しいのではないかと思います。
昔懐かしい、近所で助け合あったり親戚と助け合ったりして生きて行く、そういった環境が大事だと思うのです。
私たちは、シェアハウス事業を通して、そういった課題を解決して行きたいと思っています。