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  • 2020年3月30日

“知らない誰か”が食事を提供してくれるレストラン

皆様、こんにちは。今回はキクエスト編集部が日本国内外の社会課題と問題解決に向けた施策を事例と共に紹介していきたいと思います。今回のテーマは“食と貧困”です。

何らかの事情により家庭で満足に食事を取ることが難しい子どもに食を提供する“こども食堂”が昨今話題になっています。しかし、子どもだけではなく手間暇かけて作られた温かい食事を大人が無料で享受できる場所はないのでしょうか?

今回は、私たちが生きる上で欠かせない”食”を、無料で享受することのできる仕組みを作ったレストランや、その根底にある「Pay It Forward(恩送り)」の考え方をご紹介します。

収入によって”食”の質が異なる?食と貧困の関係性。

安価でお腹を満たすことができる場所と聞いて私たちが思い浮かべるのは、ハンバーガーなどのファストフードチェーン店や、牛丼チェーン店などではないでしょうか。

これからのお店では安く、そして手軽に温かくて美味しい食事を取ることが出来ます。しかし、これらの食事で私たちが生きていくのに欠かせない十分な栄養を摂ることが出来ますか?と聞かれたら恐らく答えは「NO」だと思います。それでは、バランスのとれた食事にはどのくらいの金額がかかるのか、見てみましょう。

厚生労働省の報告によると、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度がほとんど毎日」と回答した割合は、世帯収入が600万円以上の男性は52.5%、女性が57.5%の割合に比べて、世帯収入が200万円未満の男性は37.3%、女性が39.6%でした。世帯収入が多い家庭では、よりバランスのとれた食事をとっている傾向が高いと言うことが出来ます。

また、食品群別に見ていくと、豆類やきのこ類などボリューム感は無いが栄養価の高い食材の分野における摂取量が、男女ともに世帯収入が600万円以上の家庭でより充実していることも分かります。

世界内外のレストランの取り組み

その差は著しいものではありませんが、貧困と食の関係は、少なからず関係してくるようです。

このような“食と貧困”の問題にいち早く目をつけ、貧しい人でも無料で十分な食事ができるような仕組み作りに取り組んでいるレストランが日本や世界中に存在しています。どのような取り組みをしているのか、3つのレストランとその仕組みについてご紹介していきましょう。

アメリカ・ルイジアナ州のメキシカンレストラン「Papi’s Mexican Cuisine」

写真:Papi’s Mexican CuisineHPより

アメリカ・ルイジアナ州にあるメキシカンレストラン「Papi’s Mexican Cuisine」では、壁に貼ってあるチケットを使い、食に困っている誰もが出来立ての食とサービスを享受することが出来るようになっています。

オーナーのAlejandro Ortizさんとその家族が始めたこの取り組みは徐々に常連客の間でも広まり、今ではお客さんから提供されるものも含め壁一面にチケットがびっしりと貼られています。

「食事チケットを使った人々は、いつか困った人を見かけた時にその人を助けられたら、と思えるはず。」とオーナーは語ります。

お店に訪れた人の支払いで、食事を食べられる「カルマキッチン」

写真:カルマキッチンとは?より

日本では、自身がお店に行く前にお店に訪れた人により、お代がすでに支払われているレストラン「カルマキッチン」が年に3回ほど拠点を変え不定期で開催されています。

20196月開催分の収支を見てみると、次回へ送られるギフトが157,236円となっており、約15万円の持ち越しを達成しています。6月に提供された食事数は15食、平均支払額は1,534円でした。

初回開催時からバトンリレーのようにお金の流れが繋がれているこの取り組み。単発の寄付に終わるのではなく、これからこの取り組みに参加する人とのつながりを感じられるこのカルマキッチンの取り組み。今のところ次回開催はアナウンスされていませんが、日程が合えば是非参加してみたいところです。

カルマキッチンからのメッセージ(カルマキッチンHP抜粋)

あなたのお食事は、あなたの前に来たお客様によって支払われています。

この優しさと贈り物の連鎖を続けていきたいならば、あなたも次に来る方の為に、恩送り(pay it forward)してください、と招待されるお店が「カルマキッチン」です。

カルマキッチンは、ボランティアで運営されていて、全てのお料理やサービスは愛を込められて提供されています。働く人の時間も、空間も、お食事も全て、お客様への純粋な贈り物(ギフト)として提供されます。

この連鎖が続くのは、お客様とボランティアの優しさが次へとつないでいるからで、恩送り(pay it forward )の精神の一つの表れともいえます。

取引から信頼へ。
自己や孤立からコミュニティーへ。
恐怖や欠乏から祝福と豊かさへ。

そういう未来の為にギフト経済の実験を様々な形で行っています。

ただめし、まかないめし制度‥日経ウーマンオブザイヤーを受賞した店主が営む「未来食堂」

写真:未来食堂HPより

東京の神保町にある食堂「未来食堂」では、”まかない”や”ただめし”など画期的な取り組みを行っており、店主の小林せかいさんは日経ウーマンオブザイヤーを受賞しています。

未来食堂ではお客に対して様々な形態で食を提供しており、中でも50分のお手伝いをすることで一食食べられる“まかない”や、入り口に貼ってある券を提示すれば誰でも無料で一食食べることのできる“ただめし”制度を設けています。”ただめし”は、”まかない”をした誰かが、自分が食べる代わりに置いていった一食です。

公式HPで日々のメニューをアナウンスしていますが、プルコギ、豚ナスゴーヤのみそ炒め、など凝った料理ばかり!どれも全部美味しそうで毎週通いたくなってしまいますね。

未来食堂は、人の数だけその人の”ふつう”が存在し、その”ふつう”を共有していくことを理念としているようです。

国内外で広がる「誰かの代金を先に支払う」こと

誰かのお会計を先に払っておくという動きは、おなじみのマクドナルドでも起こっています。アメリカのABCのニュースによると、2017年の父の日に、あるマクドナルドの店舗のドライブスルーで167人もの人が連続で次の人の代金を払ったというニュースが報道されました。

また欧米では、並んでいる後の人のコーヒー代金を支払う、もしくは支払い困難な人のコーヒー代金を代わりに支払う「Suspended Coffee(保留コーヒー)」と呼ばれるアクションがあり、実際に誰かの為にお金を支払う方も珍しくありません。このSuspended Coffee100年以上も前にイタリアのナポリで始まった伝統的なカフェ文化なのです。誰かにコーヒーをご馳走する文化が100年も続いているなんて素敵ですね。

私たちの住む日本ではコーヒーチェーン店のギフトカードを知人へのプレゼントとして送ることが出来、ちょっとした御礼の気持ちとしてコーヒーのギフトカードを贈る、ということも広まって来ました。

「Pay It Forward(恩送り)」という概念

今回紹介した大半の事例に共通するのは、「Pay It Forward(恩送り)」という考え方です。

この考え方は、2001年公開のアカデミー賞受賞が期待された映画「Pay It Forward(ペイ・フォワード 可能の王国)」でも焦点が当たりました。

社会科の先生から「もし自分の手で世界を変えたいと思ったら、何をするか?」という課題を出された主人公の少年・トレバーが「良いことを3人に行い、さらにその思いやりを受けた人がさらに他の3人に思いやりを返していく」という考えを提案し、優しさを誰かに贈ることの連鎖と、それにより生じた登場人物の心情の変化について描かれた一作です。

両親はアルコール中毒患者という複雑な家庭環境を持つ彼の提案から、身の回りに広がってゆく「Pay It Forward」の力。興味を持った方は是非本編を観てみてください。

 

  • 年収600万円の人にとっての、1,000円のランチ。
  • 年収200万円の人にとっての、1,000円のランチ。

1,000円という値段設定はおなじですが、その1,000円が持つ重みや価値は決して同じだとは言い切ることが出来ません。

カフェでコーヒー一杯を頼んでデザートを買おうとした時に、そのデザートの代金を貧しい誰かの一杯と笑顔に繋げることができるだろうか、と思いを巡らせることが出来る世の中になったら、みんなが少しずつ優しい気持ちになれるかもしれません。

友人に限らず、見知らぬ誰かへの”好意”としてお金を支払うことは海に流すボトルメールのようなものだと思います。支払い主の思いを受け取った人の表情を思い浮かべると、あなたも自然と優しい気持ちになってくるのではないでしょうか。

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