アメリカで拡大するビーガン市場
ボストン生活で驚いたことの1つが、アメリカにおける「ビーガン」の多さです。日本ではあまり馴染みのない「ビーガン」。ビーガンとは何のことで、よく聞く「ベジタリアン」とは何が違うのでしょうか?
日本語で「絶対菜食主義者」と訳されるのが「ビーガン」です。ビーガンは、肉、魚、卵、乳製品は勿論、 肉のエキスやラードなど動物性が入った食品を一切口にしません。厳格なビーガンになると、毛皮や革製品など、動物を使った製品の使用も避けます。ビーガンには様々な種類が存在し、例えば「Raw Vegan(ロービーガン)」では、約40度以上に加熱されていない生の野菜や果物、ナッツなど未加工の食品だけを食べる人々のことを指します。
一方、「ベジタリアン」とは動物性食品を排し、野菜中心の食生活をする人のこと。ビーガンは、乳製品や卵を含む動物性由来の食材も一切食べませんが、ベジタリアンはこれらの食材は口にすることもあります。
調査会社「Global Data」の報告によると、2014年に「ビーガンである」と主張した消費者はアメリカ全土でたった1%にすぎませんでしたが、2017年にはその数は6%にまで増加しました。(出典:https://foodrevolution.org/blog/vegan-statistics-global/)
ビーガンの増加に伴い、アメリカのビーガン食市場は下記グラフのように年々拡大しています。
アメリカ市場において「ビーガン」は実際どのような事象をもたらしているのか、なぜアメリカで市場で拡大し続けていているのか、その理由を一緒に見ていきましょう。
アメリカで見つけたビーガン用のフェイクフード
少し前までアメリカ料理と言えば、ステーキやハンバーガーなど、ジャンキーなお肉料理のイメージがありましたが、最近そんなアメリカ料理に変化が生じてきています。肉を食べないビーガン向けに、アメリカの食品メーカーから、肉や魚、乳製品を一切使用せず、植物性食品のみで作られた「フェイクフード」が数多く発売されています。いくつかご紹介しましょう。
1.肉を使用しないハンバーガー
大豆やエンドウ豆などの植物性食品だけを使用して、本物の肉のような見た目・食感・味を再現した「代替肉(フェイクミート)」です。フェイクミートと言われなければ本物の肉と間違えてしまうほど、見た目も味もお肉そっくりです。
2.魚を使用しないツナ
エンドウマメや海藻などを使用して、魚のような見た目・食感を再現した「代替魚(フェイクフィッシュ)」。見た目はツナですが、味はオリーブオイルの味が強く、フェイクミートほどのリアルさはありません。
3.卵を使用しないマヨネーズ
「マングビーン(緑豆)」という豆を使ったマヨネーズや、アボカドで作ったマヨネーズ「アボネーズ」などがあります。味も美味しく、コレステロール値を気にする人にもおすすめのヘルシーなマヨネーズです。
4.乳製品を使用しないヨーグルト
牛乳ではなく、ココナッツをベースにして作られた「フェイク・ヨーグルト」です。ヨーグルトというよりはゼリーのような「プルルン」とした食感で、牛乳寒天を食べているような感じです。
5.ココナッツで出来たアイス
ココナッツを使った植物性のアイスクリーム。トッピングのチョコレートブラウニーやクッキーも卵や牛乳などを一切使用していないものが用意されています。濃厚で、個人的には普通のアイスクリームよりも好きでした。
なぜ植物性食品が人気なのか?
このようにアメリカではビーガン向けの「植物性食品」が続々と登場しています。
「なぜアメリカではこんなにもビーガンが多いのか?」「皆ダイエット目的でビーガンになるのだろうか?」という疑問を抱き、「ビーガンになった理由」について独自に調査を行いました(アメリカで出会ったビーガンの友人8名ほどへ質問)。
その結果、「宗教上の理由で」「健康に良いから」という回答もありましたが、最も多かったのは「環境に良いから」という回答でした。
なぜビーガンは環境に良いのか?
「ビーガン=環境に良い」というイメージが全くなかったため、この回答結果に驚きましたが、調べていくうちに「畜産業が環境に与える影響がとてつもなく大きい」という事実に向き合うことになりました。あまり知られていませんが、畜産業をする上で大量のメタンガスが排出されています。その理由は、家畜がするゲップやおならです。そして、このメタンガスが地球温暖化に繋がっているのです。
例えば、平均サイズのビーフバーガーを週に1〜2回食べた場合、その牛肉を生み出すために、1年間に604kgの温室効果ガスが発生します。これは、車で約2,500 km運転した時に発生する温室効果ガスと同等の量になります。※出典:https://www.milliondollarvegan.com/meat-and-climate-change/
2018年にイギリス・オックスフォード大学が中心となって行った研究では、「ベジタリアンの食事にすると63%、ビーガンの食事にすると70%、温室効果ガスを削減することができる」と発表されています。※出典:https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/news/201603-plant-based-diets/
また、畜産業は地球温暖化問題だけでなく水不足問題にも関わっています。畜産業は果物や野菜の生産と比較し、大量の水を必要とします。2030年には水需要に対して水資源が40%不足すると言われている現在、水資源の管理は持続可能な発展のために重要な課題となっているのです。※出典:The 2030 Water Resources Group
地球温暖化対策や水の使用量を減らすために、肉食生活から植物生活にシフトしようという動きがアメリカをはじめ世界で高まっているのです。
私たちが環境保全のためにできること
「肉を使用しない食べ物=ヘルシー」と思っている人が多いようですが、フェイクミートや非乳製品などの植物性食品には油や添加物などが含まれていることも多く、専門家の間では健康上の問題について議論が続いています。また、成長期の子供が一切肉や魚を口にしないことも、身体に何らかの影響が生じることは間違いありません。このような事実からも、私は「肉や魚などの動物性食品を一切口にしない」という極端な食生活は推奨しません。
しかし、「畜産業が地球温暖化や水資源の減少に影響を与えている」という事実について理解し、例えば「毎日1食だけ野菜や果物だけの食事に置き換える」などのアクションをすることは、地球がいつまでも美しくあり続けるために必要なことかもしれません。