皆さんこんにちは!この記事はパラリンアート村山が不定期でお届けする会社訪問連載企画です。
皆さんは「就労継続支援B型」ってどういったところかご存じでしょうか?
お恥ずかしながら僕は、パラリンアートの仕事をするまで知りませんでした。
就労継続支援B型とは・・・障がいや難病があり、年齢や体力などの理由から企業等で働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスです。
※参考ー厚生労働省「障害者自立支援法等の一部を改正する法律案の概要」
第7回目の今回は大阪にある就労継続支援B型の「工房はんど」さん。
利用者が20名ほどで、利用者の皆さんで描いたアート作品でオリジナルのテキスタイル(布製品における生地や柄)を作成し外部にデザイン販売したり、カードケースやマスク・カバンなどの雑貨も手作りし店頭や委託先などで販売されたりしています。
オリジナルマスク アマビエデザインでかわいい
人気のジャバラ式カードケース
ここに至るまでに乗り越えてきた苦労や困難、利用者さんに対する想いなどを今回インタビューさせていただきました。
工房はんどさんには何度か遊びにいってますが、代表安野(あんの)さんはじめスタッフさん、利用者さん全員暖かく、伺うたび「将来こういった施設運営に携わりたいなぁ」と思わせてくれる素敵な工房です。この記事を通じて読んでいただいた方に、こういう施設があるということを少しでも知ってもらえたら幸いです。
前置き長くなりましたが、工房はんど代表、安野さんにインタビューしてきました!
工房はんど立ち上げまで
村山:工房はんど、立ち上げてどのくらいになるんですか?
安野:2016年の12月に開所したので、もうすぐ丸5年になりますね。
村山:5年ですか、じゃあ立ち上げ初期からお付き合いある感じですね!だいぶ取り組みが広がってますよね!
安野:なんとか人間らしい生活を送れるようになりました(笑)人間らしい生活ができると体が健康になってくるんですよ!
村山:わかります、日々息抜きのタイミングがないと食生活荒れたり寝れなかったりで不健康まっしぐらですからね(笑)工房はんどを立ち上げたきっかけってなんですか?
安野:これまでの経歴を話すと、もともと化粧品会社の営業をしていて27歳ころに交通事故にあったんですね。
その後営業に戻るのは難しくて、自身の体を治しながら福祉の仕事に携わったんです。
はじめは知的障がいがある方の入所施設に職員として入りましたが、2年目に在宅で困っている人の相談業務をする担当になりました。
16年ほど働いた後そこを退職して、今の工房はんどがあるこの場所で就労継続支援A型B型を運営していた法人に転職したんやけれども、1年半でその事業所をたたむことになって、、どうしよう、、と悩みながらもエイヤーで短期間で立ち上げたのが工房はんどです(笑)
村山:激動じゃないですか(笑)エイヤーでやるしかなく立ち上げて、間もなく5年になると。
安野:いま53歳なので5年前だと47、8歳でしょ?やりたい仕事で雇ってもらうのは多分無理だと思ったんですよ。どっかで商売してみたかったっていう気持ちと、今の工房はんどのような仕事がしたくて、前の事業所が閉まってからぶわーっと最短で2か月くらいでここ立ち上げて。
村山:2か月ですか!?すごいですね、、、
安野:いやもう必死でしたよ(笑)工房はんど立ち上げるまではそんな激動人生でした。
村山:激動人生(笑) 就労継続支援事業にした理由は何ですか?
安野:就労継続支援というか、中間的役割のところを作りたかったんです。福祉の仕事をしていたときに、小中学校で不登校になった子たちが大人になって、その大人たちのもとへ訪問をし、いろんな福祉サービスを紹介していくという相談支援をやっていたんですが、当時はいわゆる就労するための準備場所になるような「作業所」が少なかったんです。相談支援を行う人間として、繋ぎたくても繋ぐところがなかったので、当時から必要性を感じていました。
訪問支援していくなかで、アートの才能を持った方が少なからずおったのにも関わらず繋げない。中間的な役割のところと、アートの才能もった人を支援するところがあったらええよなと思って。まさか自分が経営者になるとは思っていませんでしたけど(笑)
無報酬期間も!?1円を稼ぐ大変さ、1円を生む大変さ
村山:相談員時代の経験や思いから、立ち上げたからにはアートを支援できる中間的な役割をやろうということですね。立ち上げてすぐ、今のようなアート事業はやっていたんですか?
安野:立ち上げた当時は利用者4人でスタートして、その中で絵が描けたのはTAKUO(パラリンアートの登録アーティストです。クリックでTAKUOさんの作品ご覧になれます。)だけ。売るものもない、内職するしかない。っていうところからスタートです。
村山:企業さんから内職受注しながら、少しずつ?
安野:そうですね、内職やりながら少しずつ作品をためていったんです。パラリンアートとつながり、徐々に登録をしたり、いろんなところからコンペやコンクールの話が来て、それに向けて作品作って参加したりだとか、ほんまに商品と言えないような商品を手作りしたりやとかで、模索を1年間したんですよ。1年間ほんまに模索。
村山:当時の苦労を前にSNSで投稿されてましたね、アボカドのやつとか(笑)
安野:ほんまそうやったんですよ!(笑)1年間は利用者も増えず、売るものもない、行くとこもない。1年間無報酬。家賃は払わなあかん、給料払わなあかん、貯金をずっと切り崩していたんですよ。どんどん減っていくんですよ。これはあかんわーって。半年経った時にこれほんまやばいと思ったんですよ。もう半年同じ状態が続いたらもう閉じるかもわからへんって、職員2人に言うたんですよ。当時、精神的に相当追い込まれてまして、、んで半年経った時に利用者が徐々に増えてきて、お仕事やオーダーも来だした。イベントに出展せん?みたいなお話も来はじめて。
村山:1年間無報酬、、、でも少し良い方向に風向きが変わってきた感じですね。
安野:無報酬から月4万円くらいは得られるようになりまして(笑)
村山:それでも4万円!?
安野:結構地獄みましたよ(笑)
そんでね『1円玉転がった話』、これ僕の中で有名なエピソードなんですけど、
ある時財布の中から1円玉が転がってって、必死で探したんですよ。そりゃもう必死で探している自分がいて。結果的に見つかったんやけど、そんなに必死になる自分に対してすごく情けなくなって。
1円を稼ぐ大変さ、1円を生む大変さ、、、生めないんだもんだって。内職の仕事もらえなきゃ稼ぐ手段がないわけでしょ。売るもんないんだもん。やっていけるんのかなって当時はほんまに思いました。
SNS投稿からつながる縁
村山 : そこから次第に利用者さんも増え、売るものも増え。今では絵を描く利用者さんもたくさんいらっしゃいますよね。
安野:はい。立ち上げた当初は利用者はすぐ集まると思っていたんですよね。ただ、相談員時代の知り合いに立ち上げたことを伝えても「絵を描く人なんておらんよ」って言われるんです。
で、いろんな相談員に声かけたけど、相談員自体がアートのこと分からないから拾えないんです。
素敵な絵を描く子であっても、親・本人・相談員は素敵な絵ではないと思ってしまっていることが多くて。。。。だから掘り起こさない。
なんぼ相談員に声かけても絵を描く人なんていないよと。「内職だったら行くけど、絵でしょ?できないよ。」って。誰からも連絡来ないし、見学も来ないし。パンフレット配ろうと何しようと来なかった。
村山:そこからどんな工夫をして利用者さんが来るようになったのですか?
安野:ひたすらSNSに投稿しまくったんですよ。ほんなら障がい当事者から直接連絡来るようになって。
村山:相談員さんが繋ぐのではなくて?
安野:そうそう、当事者からの問い合わせが入り始めたんです。
村山:まさに転機ですね!
安野:はい、SNS続けていたら1人、2人と徐々に増えていって。そんな感じで今20人。これでやっとご飯食べられるって思いました(笑)利用者だけでなく、SNS経由でイベントの主催者さんから「そんな面白いことやってんねんやったら、うちのイベントおいでや」って声かけてくれたり、知ってもらうきっかけになりました。
村山:SNS得意な施設さんってそんなに多くないですよね?
安野:うちも得意ではないですよ(笑)必死やったから投稿し続けていただけで。ただ、継続していて良かったって思っています。SNSからどんどん繋がりが広がってきて、お仕事いただいたり、オリジナルのオーダーいただいたり、それが途切れないんですよ。
利用者の皆にやってもらえる依頼がある。応援してくれる人がたくさんできて、それによって事業も続けられているのでほんまに感謝です。
村山:そもそもいい取り組みですし、アートってSNSと相性いいですもんね。個人でも購入できるような商品なので広がっていくんですかね。
安野:そうなんですかね~。どんなオーダーでも答えますよ(笑)
村山:僕もしょっちゅう無茶なオーダーしてますけど、毎回ご快諾いただいてますもんね(笑)
個人的に工房はんどさんに特注したノートPCケース、スマホケース、一筆箋。重宝してます。
「大丈夫」と言い続けること
村山:工房はんどさん、何度かお邪魔してますがすごく雰囲気いいですよね!いつもすごく楽しい感じ。
安野:楽しいですよ!まぁ、わーって盛り上がるとそこに入れない人もいるので難しいところなんですけどね。
村山:コミュニケーションをとるうえで、何か工夫していたり大切にしていることはありますか?
安野:全力で応援する、安心をさせる、無責任な言葉やけど「大丈夫やで」と。これは大事にしています。信頼関係築けてないときに言っても「私のことなに知ってんねん」ってなるんですけどね。
相談員の時からある程度コミュニケーションをとれたなと思った段階から、安心させるという意味で「大丈夫やから」って。ここにおったら大丈夫やし、安野の言うてること聞いとってくれたら大丈夫やから安心しなさい、というのはよく言いますね。
工夫というか、本人を安心させるという意味でね。「これいけるかな、あかんかな」って本人が迷っているときにも「大丈夫」って伝えています。
村山:太鼓判を押すわけですね!
安野:そう!問題なしって(笑)まぁ時にはこうしたら、ってアドバイスするときはあるけど、基本的にうちの雑貨で売るものに関してはどんなものでも「大丈夫、問題ないから」って伝えてます。
村山:だからこそ自由な発想で魅力的なデザインが生まれるんですね!
安野:そうですね。「大丈夫」って伝え続けていくうちに、最初はどんよりとした絵しか描けなかった人も、ちょっとずつ明るい絵が描けるようになってきたりとか。ほんとに一人一人のエピソード紹介したいくらいなんですが、みんなそうやって内面しんどかったのが、ちょっとずつちょっとずつ明るくなってくるんですね。アートがリハビリになっているような感じですね。
こんな笑顔で「問題なし、大丈夫」って言ってくれる上司が欲しい←
安野さんの想い
村山:ざっくりとした質問なんですが、工房はんどを通じて何かしていきたいことはありますか?
安野:利用者さんたちの障がい、病気っていうのを取っ払いたいんですよ。今なんか、利用者さんたちを障がい者と思ってないですから、まずね。物事知ってるし、社会のこと知ってるし、人との距離感わかってるし、絵が描けるし。僕なんて何にもできないですよ(笑)ほんまに障がい者という言葉いらんと思ってますわ。ここでは。ただ、今までしんどい想いをしてきたので、この人たちが力を発揮できるようになったりだとか、笑ってる姿を見るっていうのはほんまに嬉しいです。
村山:つらい時期を過ごしてきて自信がなくなっているので、成功体験をここで積み上げていってる感じですね。
安野:そうですね。社会で対等に生きていけるという自信を持ってもらいたいと思っています。
また、工房はんどの活動を通じて少しでも「障がいのある人」ではなくて「個性ある作品を生むことができる」という認識に社会がなって欲しいと思ってます。「障がい者」といった括りはおかしいと思っていて。障がいがあるから作業所とか、障がいがあるから内職とか、そういうことではなくて、それぞれ断然僕らより能力あるやんって。単に今の日本社会の仕組みにはまらんかっただけで。はまる前にしんどくなっただけで、ずば抜けている特性はちゃんと対等に社会と戦えるやんって。そういうものを持ってる人たちなんです。っていうことを知ってもらいつつ、(利用者に対しては)「大丈夫やで、全然負けてへんで」っていう自信を持たせてあげたい。っていうのが私の想いです。
村山:ずば抜けてる特性ってほんと身に染みて感じますよね!僕も絵描けない人間なのですが、アーティストさんたちの作品をみて、専門的なことはわからないけど心が揺さぶられるというか、素直に感動しちゃうんですよね。そんなアートの魅力を少しでも広げていきたいって思います。
最後に、安野さんの夢をお聞かせください。
安野:僕的には工房はんどが、行政から給付を受けて福祉サービスとして運営するんではなくて、いち企業・いち事業体になって社会と対等に戦っていけるようなものにならんかなぁって思ってて。僕もいずれ引退するときがきて、ここ誰が継ぐ?って問題がでてくるじゃないですか。僕の夢は、いち企業のいち部署としてどこかの企業がそっくりそのまま引き抜いてくれることですね。企業のデザイン部門、みたいな。
村山:それいいですね!!工房はんどの仕組みそのまま、皆さんが企業の正社員になって。すごく理想的ですよね!
安野:安心して引退できますよね(笑)将来、全国の作業所と企業がうまくリンクして、そうしたことがどんどん実現していったらええなって思います。
取材を終えて
いつも明るく楽しい雰囲気の工房はんどさん。立ち上げからたくさんの苦労を乗り越えてきたからこそ一体感があり、こういうところがどんどん増えていけばいいなと思いました。
この業界に身を置いていると、まだまだ世間では「福祉が儲けてはいけない」という風潮があります。そういう風潮が理由でなのか、福祉側も、世の中に出回っているものよりも安く提供している傾向にあり、またそのサービスを利用する側も「そういうものだ」と認識しているような暗黙の了解が根強くあります。
個人的な見解となりますが、よい福祉事業が拡大し成長できるくらいの、またその事業に携わる従業員の方がしっかりとした報酬をもらえるくらいの利益をあげるべきだと思っています。福祉事業を「持続可能な事業」にするためにも、「福祉こそ儲ける」必要があります。もちろんいいサービスを追求することは前提ですが。
今回の取材で、改めて福祉業界に根強く残るこの風潮をなくしていきたいと思いました。何ができるかわかりませんが、パラリンアートの活動を通じて伝えていければと思います。(いいねと思っていただけたら、この記事を拡散いただけると嬉しいです。)
◇工房はんど◇
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